薪ストーブのカタログには、熱効率が80%、75%と書かれています。同じ機種なのに、資料によって数字が違うこともあります。熱効率とは何の割合で、どう測るのか。2026年に定められた日本の試験方法の規格、JIS S 3051「家庭用木質バイオマス燃料燃焼機器の試験方法」を手がかりに、薪の化学から順にたどります。
この規格ができた背景には、家の省エネ基準があります。2025年4月から、原則すべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務になりました。家の省エネ性能は国のWebプログラムで計算し、暖房機器は効率と出力の数字で評価されます。薪ストーブを暖房として数えるには、共通の方法で測った熱効率と熱出力が必要でした。
熱効率は、薪の熱のうち部屋に届いた割合です
薪を燃やして出た熱は、一部が煙と一緒に煙突から出ていき、一部が燃え残りの炭や、燃えきらなかったガスとして残ります。残りが部屋を暖めます。熱効率は、薪が持っている熱のうち、部屋の暖房に使えた熱の割合です。
JIS S 3051では、薪の熱から次の損失を引いて熱効率を求めます。
| 逃げていく熱 | 中身 |
|---|---|
| 燃え残りの炭 | 灰の中に残った燃えていない炭素。薪ストーブは0.5%とみなす |
| 煙が持ち去る熱 | 煙突へ出ていく、温まった排ガスの熱。排ガスの温度と室温の差、それに排ガスの量で決まる。空気が多く入るほど排ガスは増える |
| 煙の中の水蒸気が持ち去る熱 | 薪の水分と、燃えてできた水が水蒸気になって運ぶ熱 |
| 燃えきらなかったガス | 一酸化炭素として出ていった分の熱 |
| 水を蒸発させる熱 | 水を水蒸気に変えるのに使われた熱。高い発熱量を基準にするときだけ数える |
※ JIS S 3051の考え方を、当社の言葉で整理したもの。
熱出力は、熱効率に、1時間に燃やした薪の量と、薪の発熱量を掛けて求めます。効率の高いストーブほど、同じ暖かさを少ない薪でまかなえます。
試験は、計量器の上でストーブを燃やして行います
試験ではストーブを台はかりの上に据え、燃えて減っていく薪の重さを連続して量ります。煙突の途中には測定部を設け、煙突の引き(ドラフト)、排ガスの温度、排ガスに含まれる一酸化炭素・二酸化炭素・酸素を測ります。煙突の引きと試験室の温度も、決まった範囲に保ちます。
燃やす薪も決められています。樹種はコナラかクヌギで、木質燃料の国際規格ISO 17225-5のA1クラスで、含水率が10〜20%の薪を使います。A1は、幹の木か、化学処理をしていない木材加工の端材を原料にする等級です。予熱で熾火の床をつくり、45分以上の予備試験を経て、決まった量の薪を足しながら45分以上の燃焼を3回続けて測ります。
この規格が評価するのは熱効率と熱出力です。煙の量や成分は、この試験の評価には入っていません。煙の話は別の物差しで考える必要があります。
同じストーブに、二つの熱効率があります
熱効率の数字が資料によって違う理由の一つは、分母にする薪の発熱量に二つの決め方があることです。
薪は燃えると水を出します。家と薪ストーブの読みもので計算したとおり、含水率20%の薪1kgからは約0.63kgの水が出ます。この水は水蒸気になって煙突を上ります。水を水蒸気にするには熱が要り、その量は水1kgあたり約2,400キロジュールです。
水蒸気が運んでいった熱まで含めた発熱量を、高い発熱量(高位発熱量、HHV)と呼びます。水蒸気になった分の熱を初めから差し引いた発熱量が、低い発熱量(低位発熱量、LHV)です。含水率20%の薪1kgで計算すると、次のようになります。
| 項目 | 含水率20%の薪1kg |
|---|---|
| 高い発熱量(HHV) | 約15.8メガジュール |
| 出てくる水 | 約0.63kg |
| その水を水蒸気にする熱 | 約1.5メガジュール |
| 低い発熱量(LHV) | 約14.3メガジュール |
※ 乾いた木の高い発熱量を1kgあたり19.8メガジュール、水素6%として当社で計算。樹種で少し変わります。
部屋に届いた熱が同じでも、大きいほうの数字で割れば効率は低く、小さいほうで割れば高く出ます。含水率20%の薪なら、低い発熱量の基準で72%のストーブは、高い発熱量の基準では約65%になります。同じストーブ、同じ火でも、7ポイントほど違って見えるわけです。ヨーロッパの薪ストーブの効率は、多くが低い発熱量を基準にしています。カタログの数字を比べるときは、どちらの基準かを確かめてください。
薪ストーブは、水の熱を取り戻せません
ガスや灯油の給湯器には、排気の水蒸気をわざと冷やして水に戻し、そのときに出る熱を回収する機種があります。水蒸気が水に戻るとき、蒸発のときに使った熱をそのまま返すからです。
薪ストーブで同じことをすると、煙突の中で煙が冷えて、燃え残りのガスが管の内側に結露し、水分や煤とまじってタールになります。煙突を汚し、煙道火災の原因になります。タールのもとになるガスは、水蒸気が水に戻るよりも高い温度から結露し始めます。薪ストーブは、煙を十分に温かいまま外へ出さなければなりません。水蒸気が運ぶ熱は、安全のために手放している熱です。
だからこそ、薪の水分が効率を大きく左右します。水分の多い薪は、水を蒸発させるために熱を使い、その熱は戻ってきません。
| 薪の含水率 | 高い発熱量 | 低い発熱量 | 低い÷高い |
|---|---|---|---|
| 15% | 約16.8MJ/kg | 約15.3MJ/kg | 約91% |
| 20% | 約15.8MJ/kg | 約14.3MJ/kg | 約90% |
| 30% | 約13.9MJ/kg | 約12.2MJ/kg | 約88% |
| 40% | 約11.9MJ/kg | 約10.1MJ/kg | 約85% |
※ 当社の計算。
含水率40%の薪1kgが持つ使える熱は、20%の薪の7割ほどしかありません。同じ重さの薪を買っても、湿っていれば暖かさは目に見えて減ります。そのうえ煙は冷え、煙突は汚れます。薪の乾燥は、効率の話でもあり、安全の話でもあります。
効率の差は、ひと冬の薪の量になります
熱効率の数字の差が、暮らしの中でどれくらいになるのか。家が1日に必要とする暖房の熱を、平均5キロワットで10時間、合わせて50キロワット時(180メガジュール)として計算します。
| 条件 | 1日に要る薪 |
|---|---|
| 含水率20%の薪・効率72% | 約17.5kg |
| 含水率20%の薪・効率60% | 約21.0kg |
| 含水率40%の薪・効率72% | 約24.8kg |
※ 低い発熱量を基準に当社で計算。湿った薪では効率そのものも下がるため、実際の差はもっと開きます。
効率が72%と60%のストーブでは、1日に3.5kgほど薪の量が違います。150日焚けば、500kgを超える差です。湿った薪を使えば、同じストーブでも1日に7kg以上多く燃やすことになります。含水率20%の薪1kgが部屋に届ける熱は、効率72%で約2.9キロワット時。1キロワットの電気ヒーターを、3時間近く動かせる熱です。薪を割って運び、乾かす手間を思えば、効率の数ポイントは、腕と腰にも効いてくる数字です。
性能のいい家ほど、効率の数字が効いてきます
断熱と気密のいい家は、必要な暖房の熱が小さくなります。そういう家では、出力の大きなストーブを絞って燃やすより、出力の合った機種を効率のよい状態で燃やすほうが、薪の量も煙も少なくて済みます。熱効率と熱出力が同じ物差しで測られるようになれば、家の性能に合わせて機種を選ぶ根拠が、これまでよりはっきりします。
一方で、国の省エネ計算は一次エネルギーという物差しで暖房機を比べます。薪が森で育ち直す燃料であることを、この物差しの上でどう数えるかは、まだ決まりきっていない課題です。当社は、機種選びの数字を家の性能と照らし合わせながら、岩手の冬に合うストーブをご提案していきます。
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参考:JIS S 3051:2026「家庭用木質バイオマス燃料燃焼機器の試験方法」。発熱量・水の量・効率の換算は当社の計算です。