新築の打ち合わせで、こう言われた方がいるかもしれません。「高気密の家に薪ストーブは、やめたほうがいい」。
半分だけ、本当です。何も考えずに据えれば、たしかに失敗します。そして、空気の出入りを計算して据えれば、高気密の家は薪ストーブにとってむしろ相性のいい家になります。今日はその「半分」の中身を、C値という物差しから順番に解きほぐします。
C値とは:家じゅうの隙間を、一枚に集めた面積
C値(相当隙間面積)とは、家の気密性能を表す数字です。意味はシンプルで、家じゅうの隙間をぜんぶかき集めて一枚にしたら、床面積1平方メートルあたり何平方センチになるか。
数字で見てみます。延床40坪(約132平方メートル)の家なら、こうなります。
| C値 | 家じゅうの隙間の合計(延床40坪の場合) | だいたいの世代 |
|---|---|---|
| 10.0 | 約1,320cm²=A4用紙2枚分の穴 | 昔の隙間だらけの家 |
| 5.0 | 約660cm²=A4用紙1枚分 | ひと昔前の在来工法 |
| 1.0 | 約132cm²=はがき1枚弱 | 今の高気密住宅の入り口 |
| 0.5 | 約66cm²=名刺1枚ちょっと | 高性能な新築でよくある値 |
| 0.2 | 約26cm²=切手数枚分 | 気密を突き詰めた家 |
※ C値×延床面積=隙間の合計面積。実際の家は気密測定で実測します。
昔の家は、壁全体がA4用紙2枚分の「開けっぱなしの窓」を持っていたようなものでした。今の家は、名刺1枚。この違いが、薪ストーブの何を変えるのでしょうか。
薪ストーブは、空気を食べる道具
燃焼の原理で書いたとおり、薪が燃えるには酸素が要ります。薪1kgを燃やすのに必要な空気は約4.6立方メートル。8kWクラスのストーブなら、1時間におよそ20〜30立方メートル、6畳の部屋の空気をまるごとひと部屋分、吸い込んで煙突から外へ出します。
ここで、単純な質問をします。出ていった空気の分は、どこから入ってくるのでしょうか。
昔の家なら、答えは「隙間から勝手に」でした。A4用紙2枚分の穴があれば、ストーブが吸うそばから外の空気が流れ込みます。「昔の家のほうが薪ストーブはよく燃えた」と言われるのは、家そのものが巨大な給気口だったからです。
名刺1枚の家では、そうはいきません。入り口が足りないまま煙突が空気を出し続けると、家の中の気圧が下がっていきます。負圧です。
負圧は、1円玉30枚の力に勝つ
ジュースのパックをストローで吸うと、パックがへこみます。高気密の家で換気扇や煙突が空気を出すと、家がこの「へこんだパック」の状態になります。
思い出してほしいのは、ドラフトの話で出てきた数字です。煙突が煙を押し上げる力は、せいぜい20〜30パスカル。手のひらに1円玉30枚分の、かすかな力でした。家の負圧がこれを上回ると、空気の流れは逆転します。煙突が家の給気口に成り下がり、煙が部屋へ流れ込む。焚いている最中でなくても、火を落としたストーブから灰の匂いが漂う「匂い戻り」も、この負圧が犯人です。
負圧を作る装置は、家の中にいくつもあります。最強はレンジフードで、強運転なら毎時400〜600立方メートル、薪ストーブの15倍の空気を外へ出します(くわしくはレンジフードの話へ)。24時間換気が排気型(第3種)の家は、仕組みからして常に少し負圧です。浴室乾燥、衣類乾燥機。全部が同じ家の空気を取り合っています。
解決策は、火に専用の空気を与えること
答えは、はっきりしています。ストーブの空気を、部屋からもらうのをやめればいいのです。
外気導入といいます。外の空気を管でストーブの足元まで直接引き込み、燃焼用の空気をそこからだけ吸わせる仕組みです。管の直径はおおむね100mm。この太さで、8kWクラスのストーブが必要とする空気をまかなえます。ストーブは家の空気に手を付けず、レンジフードとの綱引きからも降りられます。
ドイツにはこの考え方を突き詰めた「室内の空気に頼らないストーブ」の認証(DIBt認証)まであり、気密住宅ではそうした密閉性の高い機種が選ばれます。日本で選べる機種にも、外気導入に対応したものが数多くあります。
大事なのは、外気導入が「あったほうがいい装備」の話にとどまらないことです。C値1.0を切る家では、なければ逆流の危険がある必須の設計です。そして管は壁や基礎を貫通するので、後から付けるのは大工事になります。新築なら設計段階で、気密シートの処理まで含めて工務店と決めておく。ここが分かれ道です。
実は、高気密の家のほうが計算しやすい
ここまで読むと、高気密の家は薪ストーブに不利に見えるかもしれません。現場の実感は逆です。
隙間だらけの家は、空気がどこから入ってどこへ抜けるか、誰にも正確には分かりません。名刺1枚の家は、空気の出入り口が図面の上で全部決まっています。給気はここ、排気はここ、ストーブの空気はこの管。収支が計算できる家は、煙突と給気の設計精度を上げられる家です。ヨーロッパの煙突計算規格(EN 13384)が前提にしているのも、まさにこういう家です。
おまけに、高気密高断熱の家は熱が逃げません。輻射と蓄熱の話で書いた「家ごと温まる」効果が最大限に働き、小さな出力のストーブ一台で家全体がまかなえます。薪の消費も少ない。じつは薪ストーブがいちばん経済的に働くのは、高性能な家なのです。
気密の家に入れるときの、確認リスト
| 確認すること | 中身 |
|---|---|
| 外気導入 | 対応機種を選び、給気管の経路を設計段階で決める。気密層の貫通処理を工務店と共有する |
| 換気方式 | 第3種(排気型)なら負圧前提の対策を。第1種(給排気型)なら給排気のバランスを確認 |
| レンジフード | 同時給排型や連動給気シャッターを検討。焚いている時間帯の使い方も家族で共有 |
| 出力選び | 高断熱の家は小さめが正解。大きすぎる一台はくすぶりの原因(出力の目安表) |
| 気密測定 | C値の実測値があれば設計の精度が上がる。測定予定を業者に伝える |
当社は工務店・設計事務所との連携で、図面の段階から給排気と煙突経路を詰める仕事を数多くしてきました(業者さま向けのページ)。新築で薪ストーブを考えている方は、間取りが固まる前に一度声をかけてください。それがいちばん安く、いちばん安全に納まる道です。