薪ストーブの炎は、炉の中だけで完結しているように見えます。実際には、火が燃えているあいだ、ストーブは部屋の空気を吸い込み、燃えたあとのガスを煙突から外へ送り出し続けています。吸い込んだ分の空気は、家のどこかから補われなければなりません。
つまり薪ストーブは、家全体の空気の流れの一部として働く暖房です。この読みものでは、燃焼に必要な空気の量、煙突の引きの強さ、台所の換気扇や24時間換気との関係、外気を直接取り込む方法、そして一酸化炭素への備えまでを、公的機関や研究機関の資料をもとに順にたどります。
燃える薪は、部屋の空気を吸い続けています
木は、炭素と水素を含む燃料です。燃えるとは、これらが空気中の酸素と結びつくことで、そのためには決まった量の空気が要ります。チェコ工科大学の講義資料は、乾いた木1kgを燃やしきるのに理論上必要な空気を約6kgとしています。空気1立方メートルの重さは0℃でおよそ1.29kgですから、体積にすると約4.6立方メートルになります。
ただし、理論どおりの量では燃え残りが出ます。炉の中で薪のガスと酸素が出会う機会には限りがあるため、実際の燃焼では余分の空気を加えます。同じ資料は、薪をきれいに燃やす条件の一つとして、理論量の1.5〜2.5倍の空気を送ることを挙げています。薪1kgあたりに直すと、9〜15kgほどの空気です。
この空気は、窓まわりや玄関のわずかな隙間、換気口などを通って家の外から入ってきます。入ってくる量が足りなければ、炉は酸素不足になり、炎は弱く、煙は多くなります。ストーブがよく燃えるかどうかは、炉の性能だけでなく、家がどれだけ素直に空気を通すかにも左右されます。燃焼空気の量を機種の出力から求める計算は、技術ページ「換気と燃焼空気の話」で詳しく紹介しています。
煙突の引きは、意外なほど弱い力です
煙突が煙を外へ運べるのは、煙突の中の熱いガスが外の冷たい空気より軽いためです。この重さの差が、炉の中をわずかに負圧にし、部屋の空気を炉へ引き込みます。これがドラフト、つまり煙突の引きです。
引きの強さは、圧力の単位であるパスカルで表します。カナダ住宅金融公社(CMHC)が1989年にまとめた暖炉の空気についての研究では、煙突が十分に温まった状態の引きを15〜20パスカルとして扱っています。地上の気圧はおよそ10万パスカルですから、その5千分の1にも届かない、ごく小さな力です。
同じ研究では、部屋の気圧を外より10パスカルほど低く保つと、試験したすべての暖炉で、火が衰えて熾火になる段階に煙が室内へあふれ出しました。一方、5パスカルの負圧であれば、煙突がよく引いている間は煙の逆流は起きませんでした。煙突の力が弱まる時間帯に、家の側の力がそれを上回ると、流れが逆になるということです。季節や天気による引きの変化は「煙突の引きは、季節と天気で変わる」にまとめています。
台所の換気扇は、桁違いの量を外へ出します
家の気圧を下げる力を持つ設備の代表が、台所のレンジフードです。国内メーカーの深形レンジフードの取扱説明書を見ると、ある機種の排気量は、50Hz地域で「強」が毎時600立方メートル、「中」が350立方メートル、「弱」でも230立方メートルと記されています。
薪ストーブが燃焼に使う空気は、先ほどの数字から見積もると、多めに見ても毎時数十立方メートルほどです。レンジフードを「強」で回すと、その十倍以上の空気が一方的に外へ出ていくことになります。給気が追いつかない家では室内の気圧が下がり、その差は、煙突の小さな引きと直接ぶつかります。
この問題は海外の建築規定でも扱われています。米国の住宅向けモデル規定(2021年版国際住宅規定)は、毎分400立方フィート(毎時約680立方メートル)を超える台所の排気設備について、煙突の自然な引きで排気する燃焼機器が家の気密層の内側にある場合、排気とほぼ同じ量の給気を設けるよう求めています。台所の換気と薪ストーブは、同じ家の空気を分け合う関係にあるためです。浴室の換気扇や衣類乾燥機など、外へ空気を出す機器はほかにもあり、同時に動くほど影響は大きくなります。
家が緻密になるほど、空気の入口は少なくなります
日本の住宅は、この四半世紀で大きく変わりました。国の省エネルギー基準には、地域の区分に応じた相当隙間面積の基準が設けられました。相当隙間面積はC値とも呼ばれ、家じゅうの隙間を合計した面積を床面積1平方メートルあたりで表した数字です。小さいほど隙間の少ない家を意味します。
隙間が少なくなると、暖めた空気が逃げにくくなる一方で、勝手に入ってくる空気も減ります。そこで2003年7月に施行された改正建築基準法は、シックハウス対策として、住宅の居室に1時間あたり0.5回以上の換気ができる機械換気設備を原則として求めました。家の空気の半分が1時間で入れ替わる量です。いわゆる24時間換気です。
24時間換気の多くは、換気扇で空気を排出し、給気口から外気を取り入れる方式です。この方式の家では、室内がわずかに負圧に保たれることになります。暖かく、空気のきれいな家づくりが進んだ結果、薪ストーブにとっては、空気の入口を設計の段階で用意しておく必要が高まりました。気密の高い家にも、薪ストーブは問題なく据えられます。空気の出入りが設計で決まっている家ほど、収支を計算しやすいとも言えます。
外の空気を、ストーブへ直接届ける
そこでよく用いられるのが、外の空気を管でストーブへ直接導く外気導入です。対応する機種には、本体の背面や底面に専用の接続口が設けられています。部屋の空気を燃焼に使う量が減るため、室内の負圧を和らげ、冷たいすきま風を抑える効果が期待できます。
ただし、外気導入だけで安心とは言い切れません。先のCMHCの研究では、直径100ミリの管を炉に直接つないだ場合、煙突の引きが15〜20パスカルに育ったあとであれば、弱い燃焼に必要な空気を賄えることが確かめられました。一方で、部屋そのものが強い負圧になったときの煙のあふれ出しは防げませんでした。風下側の壁に取り付けた取り入れ口では、風によって負圧が生じ、流れが逆になるおそれがあることも指摘されています。この研究は工場製の暖炉を対象としたものですが、空気の流れの考え方は薪ストーブにも通じます。
外気導入は有効な手段の一つです。台所の給気をどう確保するか、取り入れ口を家のどの面に設けるか、ほかの換気設備とどう組み合わせるかまで含めて考えると、効き目が安定します。空気調整レバーが炉の中のどの入口を開け閉めしているかは「薪ストーブの空気調整レバー」で取扱説明書をもとに解説しています。
見えない一酸化炭素に、備えます
酸素が足りないまま木が燃えると、二酸化炭素(CO₂)になりきれない一酸化炭素(CO)が増えます。一酸化炭素は色もにおいもない気体です。厚生労働省の解説によると、一酸化炭素は酸素に比べて200倍以上も血液中のヘモグロビンと結びつきやすく、体へ酸素が運ばれるのを妨げます。
CMHCの研究は、煙のあふれ出しが起きやすいのが、炎が落ちて熾火になった段階であることも示しています。この段階では煙がほとんど見えないため、気づきにくくなります。試験では、イオン化式の煙感知器が着火時のあふれ出しには反応した一方で、熾火の段階のあふれ出しには反応しませんでした。
こうした性質から、薪ストーブのある家には一酸化炭素警報器の設置をおすすめしています。夜、熾火が残っている時間にレンジフードを「強」で長く回さないこと、換気扇を使うときは台所の近くの窓を少し開けて空気の入口をつくることも、すぐにできる対策です。
空気の収支は、設置の前に描きます
ストーブが吸う空気、煙突が出す空気、レンジフードが出す空気、24時間換気が動かす空気は、すべて同じ家の中でつながっています。当社が設置の前に必ず確かめるのは、この空気の収支です。ストーブを据えたあとで煙が戻ると分かっても、壁の中に通す外気の管は後から直しにくいため、計算は設計の段階で終えておきます。
900件以上の設置を重ねてきた中で、煙の逆流が一度も起きなかったとは申しません。ただ、収支を計算してあれば、逆流が起きたときに何が足りないのかを順に確かめられます。換気扇を止めると直るのか、窓を開けると直るのか、煙突が温まると直るのか。原因が分かれば、対策も決められます。
新築や改築で薪ストーブをお考えの方は、間取りが固まる前にご相談いただくと、給気の位置や煙突の経路を無理なく組み込めます。すでにお使いのストーブで、料理中に煙のにおいがする、着火のときだけ煙が戻るといったことがあれば、盛岡のショールームでお話をお聞かせください。
参考:燃焼に必要な空気量はチェコ工科大学の講義資料(英語・PDF)、引きの強さと煙のあふれ出しはCMHCの研究の紹介(英語)、レンジフードの排気量は国内メーカーの取扱説明書(PDF)、米国の給気の規定は専門誌の解説(英語)、相当隙間面積の基準は国土交通省の資料(PDF)、換気の義務は国土交通省(住宅等における換気等に関する情報提供)、一酸化炭素の性質は厚生労働省(e-ヘルスネット)による。