薪ストーブの家に遊びに行って、不思議に思ったことはありませんか。温度計を見ると20℃。自分の家のエアコンも20℃。数字は同じなのに、暖かさの質がまるで違う。
気のせいだと言う人もいます。気のせいなどではないことを、今日は物理で説明します。鍵になるのは、熱の伝わり方です。熱には伝わり方が3つあって、エアコンと薪ストーブは、使っている伝わり方が違うのです。
熱の伝わり方は、3つある
理科の教科書の最初に出てくる話を、台所で確かめてみます。
一つ目は伝導。触れているものを伝って熱が移ることです。フライパンの柄がだんだん熱くなる、あれが伝導です。
二つ目は対流。温まった空気や水が動いて、熱を運ぶことです。味噌汁を火にかけると、温まった汁が下から上へぐるぐる回ります。ドライヤーやエアコンの温風も、空気に熱を載せて運ぶ対流の仲間です。
三つ目が輻射(ふくしゃ)。熱が光の仲間(電磁波)になって、空間をまっすぐ飛んでいくことです。焚き火に手をかざすと、炎に触れていないのに手のひらが熱い。あれが輻射です。
輻射のすごさを証明しているのが、太陽です。太陽と地球のあいだは、空気ひとつない真空の宇宙。伝導も対流も使えません。それでも太陽の熱は1億5千万km先の私たちに届く。熱が光として飛ぶ、輻射だからできることです。冬の寒い日でも、日なたに出るとぽかぽかするのは、太陽からの輻射を体が直接受け取っているからです。
すべての物は、光っている
ここで、少し不思議な事実を。実は、あなたの体も、机も、壁も、すべての物は温度に応じた光を出しています。
ただしその光の多くは、人の目に見えない赤外線です。サーモグラフィー(温度が色で見えるカメラ)は、この見えない光を撮影しています。物は温度が高いほど強く光を出し、温度が低いものは弱くしか出せません。
薪ストーブの本体は、200〜300℃の鉄や石のかたまりです。ここから出る赤外線の中でも波長の長いものを、遠赤外線と呼びます。遠赤外線は皮膚のごく浅いところで吸収されて熱に変わり、温かさを感じる神経をじんわり直接温めます。温まった血が体をめぐるので、「芯から温まる」ように感じます。炭火焼きの店が「遠赤外線でふっくら」とうたうのも同じ理屈で、表面を焦がさず、じっくり熱を届けられるのです。
体感温度のからくり:あなたは壁と「熱のやりとり」をしている
いよいよ、冒頭の謎を解きます。すべての物が輻射で光っているなら、あなたと部屋の壁も、お互いに光を投げ合っていることになります。
あなたの体(表面約33℃)は、壁に向かって熱の光を放っています。壁も、あなたに向かって放っています。このやりとりの差し引きで、体の熱の収支が決まります。壁が冷たいほど、あなたが投げる熱のほうが多くなり、体はどんどん熱を吸い取られます。
これが「同じ20℃なのに寒い」の正体です。エアコンは空気だけを素早く温めますが、壁や床や窓はしばらく冷たいままです。空気20℃・壁13℃の部屋では、体感はおよそ両者の中間、16〜17℃まで下がります。冬の窓際が寒いのは、すきま風のせいだけでなく、冷たいガラスに体の熱を輻射で奪われているからでもあります。
薪ストーブは逆のことをします。本体からの輻射が、空気を素通りして壁・床・家具・そして人を直接温める。数時間焚くと、家そのものが温まった発熱体になり、部屋じゅうの面があなたに熱を投げ返してくれる。空気20℃・壁22℃なら、体感は21℃。温度計が同じでも、体の熱収支がまるで違うのです。
| 部屋の状態 | 空気の温度 | 壁・床の表面温度 | 体感のめやす |
|---|---|---|---|
| エアコンをつけた直後 | 20℃ | 13℃ | 約16〜17℃。壁に熱を奪われる |
| 薪ストーブを数時間焚いた家 | 20℃ | 22℃ | 約21℃。壁からも熱が返ってくる |
※ 体感温度はおよそ「空気の温度と、まわりの面の平均表面温度の中間」で見積もれます(作用温度という考え方)。風があるとさらに下がります。
対流も、ちゃんと働いている
薪ストーブは、対流も同時に働かせています。本体で温められた空気は軽くなって天井へ上がり、部屋をゆっくり循環します。ドラフトの話で出てきた「温かい空気は軽い」が、部屋の中でも起きているわけです。吹き抜けの家でシーリングファンを回すのは、天井にたまった温気を床へ送り返して、この循環を助けるためです。
ストーブにも性格の違いがあります。鋳物や石の本体がじっくり輻射する輻射式と、本体を二重の壁にして空気の通り道を作り、温風の循環を強めた対流式。対流式は立ち上がりが速く、周囲の壁を熱しにくいので狭い設置場所に向きます。輻射式は家ごと温める持久力が持ち味です。機種選びで迷ったら、この違いから考えると早いです(おすすめ機種の話へ)。
蓄熱:火が消えても、暖かい理由
薪ストーブにはもう一つ、輻射を支える才能があります。蓄熱です。
鋳物のストーブは100〜200kgの鉄のかたまりです。鉄200kgが80℃分の熱を蓄えると、その量はおよそ2kWh。電気ストーブを2時間つけっぱなしにできるだけの熱が、火を落としたあとの本体に残っている計算です。ソープストーン(蝋石)を積んだ機種なら、石は鉄よりさらに熱をため込むので、この余熱が朝まで続きます。
エアコンの暖かさは、スイッチを切った瞬間に消え始めます。空気は熱をほとんど蓄えられないからです。部屋の空気全部を集めても、蓄えられる熱は数十kgの石ひとつ分にもなりません。薪ストーブの家の「消えても暖かい」は、鉄と石と、温まった家そのものが巨大な湯たんぽになっているから起きることです。
岩手の家で、どう活かすか
まとめます。エアコンは空気を温める暖房、薪ストーブは物と体を直接温める暖房。同じ温度計の数字でも体感が違うのは、壁とあなたの熱のやりとりが違うからです。
この性質は、家との組み合わせで真価が決まります。断熱のよい家なら、輻射で温まった壁が熱を逃さず、蓄熱の余熱が長持ちします。古い家なら、空気全体を温めるより、ストーブの近くに「輻射の当たる暖かい居場所」を作る使い方が理にかないます。暖かさの質を数値で比べる話は、当社のATK指数にまとめました。
そして、輻射の暖かさは、言葉で伝えるより浴びるのが早い。盛岡のショールームで、火の入った実物の前に立ってみてください。温度計では測れない違いが、数秒でわかります。
