家電量販店でエアコンを選ぶとき、まず目に入るのが「おもに20畳」という表示だ。自分の部屋の広さに合わせて選べば大丈夫、とほとんどの人が思う。ところが、あの畳数は「外の気温が7℃のとき」の能力で決まっている。盛岡の1月の朝、外がマイナス10℃になったとき、エアコンが出せる暖房の力はカタログの半分以下になる。
カタログの4つの数字を読む
エアコンのカタログを開くと数字がたくさん並んでいる。暖房に使うなら、見るべき数字は4つだ。
1. 暖房能力(kW)
カタログの暖房能力は「外気温7℃で室温20℃を維持するために出せる熱量」だ。JIS C 9612という規格で測定される。20畳用なら7.1kWと書いてある。ただし、この数字は外気温7℃の条件下で出るものであって、岩手のようにマイナス5℃やマイナス10℃になる地域では、この数字通りには出ない。
カタログには「0.9〜10.6kW」のように幅が書いてある。0.9kWが最小運転、10.6kWが最大運転。最大値が大きいほど急速暖房に強い。最小値が小さいほど穏やかな運転ができて電気代を抑えやすい。
2. 畳数の目安
「20畳用」と書いてあると、20畳のLDKにぴったりだと思う。実はそうではない。
23畳(冷房)、18畳(暖房)= 鉄筋住宅の目安
木造の家なら暖房は15畳まで、が本来の意味
「20畳用」という呼び名は、冷房の鉄筋住宅の上限値から来ている。暖房で木造なら15畳用と読み替えるのが正しい。しかも外気温7℃での話なので、マイナス10℃ではさらに小さくなる。
3. 低温暖房能力(kW)
寒冷地向けの機種には「低温暖房能力」が書いてある。外気温2℃のときに出せる最大の暖房能力だ。定格より大きい数字が出ることが多い(コンプレッサーを全力で回すため)。この数字はカタログの主要スペック欄に出ていないことがある。仕様一覧の小さな字を探す必要がある。寒冷地でエアコンを選ぶなら、この数字を必ず確認する。
4. APF(通年エネルギー消費効率)
APFは「消費した電力に対して、どれだけの暖房・冷房をしたか」の効率。数字が大きいほど省エネ。現行の上位機種でAPF 6〜7程度。ただしAPFは東京の気候を前提にした通年の数字。岩手のように暖房の比重が大きい地域では、APFだけで判断しないほうがよい。低温暖房能力のほうが実用に直結する。
「20畳用」が20畳を暖められない理由
エアコンのヒートポンプは、外の空気から熱を汲み上げて室内へ送る仕組みだ。外の気温が下がると、汲み上げられる熱の量が減り、暖房の出力が落ちる。
標準的なエアコンの場合、外気温が7℃を下回ると1℃ごとにカタログ値から約3.3%ずつ能力が落ちていく。
| 外気温 | 20畳用(標準) | 実質の畳数 |
|---|---|---|
| 7℃(JIS試験条件) | 7.1 kW(100%) | 20畳 |
| 0℃ | 5.4 kW(77%) | 15畳 |
| −5℃ | 4.2 kW(60%) | 11畳 |
| −10℃ | 3.1 kW(43%) | 7畳 |
| −15℃ | 2.2 kW(27%) | 5畳 |
マイナス10℃の朝、20畳用のエアコンが出せる暖房の力は3.1kW。カタログ値の43%。20畳のリビングに立っているエアコンは、実質7畳分の仕事しかしていない。リビングにもう一台足しても14畳分。20畳のLDKはまだ足りない。
寒冷地エアコンと標準エアコン。4つの違い
寒冷地仕様のエアコンは標準型よりコンプレッサーの容量が大きく、低温時の能力低下が穏やかに設計されている。違いは4つある。
1. コンプレッサーが大きい
| 外気温 | 標準型(能力維持率) | 寒冷地型 |
|---|---|---|
| 7℃ | 100% | 100% |
| 0℃ | 77% | 86% |
| −5℃ | 60% | 76% |
| −10℃ | 43% | 66% |
| −15℃ | 27% | 56% |
| −25℃ | (動作限界外) | 36% |
マイナス10℃で標準型は43%、寒冷地型は66%。出力の差は1.5倍になる。
2. 霜取り運転が賢い
標準型のエアコンは霜取り運転中に暖房が完全に止まる。寒冷地エアコンは「ノンストップ暖房」や「バイパス暖房」と呼ばれる機能を持つ。霜取り中でも室内への暖房を止めない仕組みだ。蓄熱した熱を使ったり、室外機の別の熱交換器で霜取りと暖房を同時に行う。
3. 室外機にヒーターがある
寒冷地エアコンの室外機には底面ヒーターが内蔵されている。ドレン水(除霜で出た水)が凍結して排水口を塞ぐのを防ぐ。標準型にはこのヒーターがない。排水口が凍ると室外機の中に氷がたまり、最終的に動かなくなる。
4. 動作可能な外気温が低い
寒冷地型:−25℃まで(一部の機種は−30℃)
盛岡の冬の最低気温はマイナス13℃前後で、標準型でもギリギリ動作範囲内だ。ただし動作はしても、マイナス13℃での出力は定格の3割以下で、暖房として頼りにならない。
それでもエアコンだけでは厳しい
寒冷地エアコンは標準型より格段に強い。だが、マイナス10℃で66%、マイナス15℃で56%。20畳用でも実質13畳分、11畳分だ。20畳のLDKを1台でまかなうのは難しい。寒冷地エアコンは「標準型より強い」が「寒冷地で万能」ではない。
輻射熱という、もうひとつの暖め方
熱の届け方は3つある。伝導、対流、輻射。エアコンは対流で暖める。薪ストーブとサウナヒーターは輻射で暖める。
空気を介すので風が必要。天井に暖気がたまる。
輻射(薪ストーブ・サウナヒーター):熱源 → 赤外線 → 体の表面(直接)→ 体の中
空気を介さない。風なしで暖かい。全方向に届く。
エアコンで室温を24℃にしても寒く感じることがある。薪ストーブで室温が20℃でも暖かく感じることがある。輻射熱は体の表面だけでなく、皮膚の数ミリ下まで到達する。「体の芯まで暖まる」感覚は、この皮膚を透過する暖かさから来ている。エアコンの温風は皮膚の表面だけを暖めるので、風が止まればすぐ冷える。
サウナも輻射で暖めている。サウナストーンが300〜400℃に熱せられて赤外線を放つ。薪ストーブの暖かさとサウナの暖かさに共通点を感じるのは偶然ではない。どちらも輻射熱が主役だ。
停電した夜、エアコンは止まる
2021年2月、岩手県内で大規模な停電が起きた。エアコンはコンプレッサーとファンを電気で回す。停電すれば動かない。灯油のFF式ストーブもファンヒーターも、電気で制御しているので同じだ。
薪ストーブは薪を燃やすだけで暖房する。点火はマッチかライター。煙突のドラフトが空気を自然に吸い込み、排煙する。電気は一切使わない。停電しても薪さえあれば暖房は続く。暗い部屋でも炎が灯りになる。天板でお湯を沸かせる。鍋で煮込み料理もできる。
ペレットストーブは送風ファンに電気を使うため停電すると止まる。ただし消費電力は30〜100Wと小さいので、ポータブル電源(500Wh程度)があれば5〜15時間動かせる。完全に電気なしで使えるのは薪ストーブだけだが、ペレットストーブも小さな備えで対応できる。
岩手県は山がちで送電線が長い。雪や風で木が倒れ、送電線を切断する事故がときどき起きる。停電の頻度が高い地域ほど、電気に頼らない暖房を持つ意味が大きい。
エアコンの能力低下率はどこから出しているか
この記事で使った能力低下率は、各メーカーの公表データとJIS B 8615-1の試験条件を基に、当社が算出した推定値だ。実際の低下率は機種・設置環境・使用条件で異なる。標準型で1℃あたり約3.3%、寒冷地型で約2.0%という数字は、複数メーカーの公表値から読み取れる平均的な傾向であり、特定の機種を指すものではない。
畳数の表示がJIS基準の外気温7℃で一律に決まっていることは、メーカーが嘘をついているという話ではない。JISの試験条件で測れば、確かに20畳を暖められる能力がある。ただ、岩手の冬はJISの想定の外にある。
数字を知った上で、暖房を選ぶ。その判断材料を持っておくことに意味がある。
岩手・盛岡で薪ストーブやペレットストーブをお考えの方は、D'STYLEへ。エアコンとの暖房力の比較、併用プランのご提案まで、ご相談は無料です。
