薪ストーブを売っている店が「後悔」のページを書く。変に思われるかもしれません。
当社は岩手・盛岡で、設置とメンテナンスを合わせて1,400件をこえる住宅に携わってきました。その中には、心から満足している家がたくさんあります。そして正直に言えば、「こんなはずではなかった」という声も、確かに聞いてきました。
後悔には、パターンがあります。しかも、そのほとんどは買う前に知っていれば防げたものです。だからこのページでは、実際に聞いてきた後悔の声を10個、包み隠さず並べます。それぞれに、なぜ起きるのか、どう防ぐのかを付けました。読んだうえで「やめておく」という結論になるなら、それも正しい買い物だと私たちは思っています。
後悔1「薪が、こんなに要るとは思わなかった」
最初の冬で買い置きが全部なくなって、2月に慌てて薪を探し回りました。
いちばん多い後悔が、これです。岩手で薪ストーブをメインの暖房にすると、ひと冬に使う薪はおよそ3〜5立方メートル。重さにして2〜4トン。軽トラックに山積みで4〜6台分です。すべて購入でまかなうと、年8〜16万円ほどになります。
「薪は近所でもらえると思っていた」が、この後悔の典型的な入り口です。もらえる木は生木です。薪の科学で書いたとおり、薪は割ってから1〜2年乾かして、はじめて燃料になります。今年もらった木は、再来年の燃料。つまり薪ストーブの暮らしは、常に2年先の薪を仕込みながら回っていきます。
後悔2「薪の置き場所が、足りなかった」
庭の薪棚がすぐ一杯になって、車庫も物置も薪に占領されました。
後悔1と兄弟の関係です。乾燥に1〜2年かかるということは、家には常に「今年焚く薪」と「来年のために乾かしている薪」の二世代を置くことになります。ひと冬4立方メートル焚く家なら、敷地には最大でその2倍、8立方メートル分の薪棚が要る計算です。畳に直すと、高さ1.8mの薪の壁が幅5mほど続くイメージです。
後悔3「朝、すぐに暖まらない」
出勤前の30分のために火を起こす気になれず、結局エアコンをつけています。
薪ストーブは、点火から部屋が暖まるまで30分から1時間かかる暖房です。スイッチひとつで温風が出る道具と同じ土俵で比べると、朝の忙しい時間帯には確実に負けます。
これは欠点というより性質です。薪ストーブの持ち味は、じわじわ立ち上がって、夜まで途切れず、火を落としたあとも余熱が続く「持久走」の暖かさにあります。短距離走を期待して買うと、後悔になります。
後悔4「思ったより、暖かくない」
リビングは暑いくらいなのに、廊下と寝室は寒いままでした。
原因はたいてい、ストーブではなく選び方にあります。家の広さと断熱に対して出力が小さすぎた。あるいは間取りが熱の通り道をふさいでいた。逆に、高断熱の家に大きすぎる一台を入れて「暑すぎて窓を開けている」という後悔もあります。大は小を兼ねません。大きすぎるストーブは弱火でくすぶらせることになり、ガラスと煙突を汚します。
後悔5「ご近所から、煙の苦情が来た」
隣の家から、洗濯物に匂いがつくと言われてしまいました。
住宅地でいちばん深刻な後悔です。ただ、原因ははっきりしています。苦情になる煙のほとんどは、湿った薪と、間違った焚き方から出ています。燃焼の原理で書いたとおり、煙とは燃え残った燃料です。乾いた薪を、二次燃焼がしっかり働く温度で焚けば、現代のストーブの煙突からは、ゆらぎ以外ほとんど何も見えません。
後悔6「灰の始末と掃除が、めんどうになった」
最初の2年は楽しかったんです。3年目から、だんだん億劫になりました。
灰出しはシーズン中に週1〜2回。ガラス拭きは数日おき。薪の運び込み、こぼれる木くずの掃除、そして年に一度の煙突掃除(当社は税込27,280円から)。この手間の総量は、暮らしてみるまで実感しにくいものです。
後悔7「総額が、想像の倍だった」
本体50万円のつもりが、見積もりは150万円でした。
薪ストーブの費用は、本体・煙突・炉台炉壁・工事の四つの箱でできています。本体はそのうちの一つにすぎず、多くの家で煙突のほうが高くつきます。本体価格だけで予算を組むと、必ずこの後悔にたどり着きます。
後悔8「焚く時間が、なかった」
共働きで平日は夜9時帰り。火を入れるのは週末だけになりました。
これは後悔になる家と、ならない家に分かれます。「週末だけの薪ストーブ」を最初から分かって選んだ家は、週末が楽しみになります。「毎晩薪の火で暮らす」つもりで買った家は、使っていない罪悪感が後悔に変わります。道具は同じでも、期待の置き方で結果が逆になるのです。
後悔9「業者選びを、まちがえた」
安く入れてくれた業者と連絡がつかなくなって、煙の逆流を誰にも相談できませんでした。
いちばん取り返しがつかない後悔です。世界の安全基準で書いたとおり、日本には薪ストーブの煙突に特化した強制規格がありません。誰でも施工できてしまうので、シングル煙突で通す、横引きを多用する、離隔距離を詰める、といった施工が現実に存在します。安く見えた見積もりの正体がこれだと、数年後に煙の逆流、結露、最悪は煙道火災のリスクとして返ってきます。直すには、ほぼ新設と同じ費用がかかります。
後悔10「世話をするのが、自分だけだった」
火の番も薪運びも私だけ。家族は「暖かいね」と言うだけです。
笑い話のようで、じわじわ効いてくる後悔です。薪ストーブは家族の道具ですが、世話は自然と一人に集中しがちです。その一人が薪の火を愛せていれば問題は起きません。義務になった瞬間、重くなります。
後悔しない人の、5つの共通点
10個の後悔を裏返すと、満足している家の共通点が見えてきます。
| 共通点 | 中身 |
|---|---|
| 薪の目処 | 契約の前に、2年先までの薪の入手方法が決まっている |
| 置き場 | 敷地に二世代分の薪棚の場所がある |
| 役割分担 | 朝や外出時は他の暖房に任せる設計になっている |
| 出力の一致 | 家の広さ・断熱に合ったkWを、現地調査で選んでいる |
| 手入れの予算 | 薪代と年1回の煙突掃除が、最初から家計に入っている |
逆に言えば、この5つがそろわないまま買うと、どれかの後悔を引きます。私たちが現地調査と長い打ち合わせにこだわるのは、この5つを一つずつ確かめるためです。
いま、すでに後悔している方へ
もし、このページを「もう買ってしまって、後悔している側」で読んでいるなら、伝えたいことがあります。暖かくない、煙い、ガラスがすぐ黒くなる。こうした悩みの7割は、薪と焚き方と煙突の手入れで解決します。ストーブ本体が原因であることは、実は多くありません。
当社は、他社で設置した一台の相談も受けています。煙突掃除も点検も、もう売っていない機種の修理も承ります。手放す判断は、直せるものを直してからでも遅くありません。
最後に、正直な結論
薪ストーブは、全員におすすめできる道具とは言えません。薪の目処が立たない家、置き場のない家、火の世話を楽しめそうにない方には、私たちは正直にそうお伝えして、ペレットストーブや別の暖房の組み合わせをご提案しています。売って後悔されるより、売らずに信頼されるほうを選びます。
そのうえで。5つの共通点がそろう家にとって、薪ストーブは間違いなく、冬をいちばん好きな季節に変える道具です。まずは盛岡のショールームで、火のある時間を体験してみてください。後悔の話も、そこで遠慮なく聞いてください。
