300本の節目を前に、今日は楽屋を開けます。この読み物を、どんな決まりで書いているのか。なぜ商品の宣伝ばかりにしないのか。舞台裏の話です。読者のあなたには、知っていてもらいたいので。

編集方針は、三つだけ
この読み物の決まりは、実は三つしかありません。一、本当のことを書く。効能は盛らず、注意点は隠さず、危ないことは危ないと書く。二日酔いのときのサウナの記事や、言い伝えの検証を書いたのはそのためです。二、誰かを悪く言うためには一文字も使わない。他店との比較で自分を上げず、脅しで売らない。三、読んだ人が、読んだだけで少し得をするように書く。買わない人にも役立つ記事は、遠回りに見えて、いちばん確かな店の名刺だと信じています。(この方針の原点は、100本目に書きました。)
なぜ、売り込まないのか
正直に言えば、私たちは商売人ですから、すべての記事の出口には店の案内があります。でも、記事の九割は、買わなくても役立つ話です。理由は単純で、火と蒸気の買い物は、信頼で決まる買い物だからです。安い設備ではありませんし、設置してからの付き合いは何十年も続く。その相手を選ぶとき、人は、声の大きい店より、正直な店を選びます。300本の記事は、私たちの「正直さの証拠品」のつもりです。読み比べて、信頼できると思ったら、来てください。それで十分です。
記事の種は、店先で生まれる
ネタはどこから、とよく聞かれます。答えは、店先とお客様の家です。ご相談で受けた質問、設置先で聞いた一言、メンテナンスの雑談。「みんな同じところで悩むんだな」と気づいたら、それが次の記事です。だから、この読み物の本当の共著者は、お客様たちです。あなたの質問が、次の一本になります。遠慮なく、店で聞いてください。(お客様の言葉たちは、語録に。)
書き続けるほど、土地の記録になる
もう一つ、書きながら気づいたことがあります。火と蒸気の話を掘っていくと、いつのまにか岩手や北東北の暮らしそのものに行き着くのです。囲炉裏の火、杜氏の冬仕事、雪国の道具、山菜の暦。売り物の話をしていたはずが、この土地の記憶を書き留める作業になっている。誰かが書いておかなければ、日々の暮らしの知恵は静かに薄れていきます。300本の読み物は、火の店の商売の記録であると同時に、盛岡に生きる私たちの、ささやかな土地の帳面でもあるのです。
三百本を、支えてくれた人たちへ
一本の記事は千数百字。三百本を積めば、ちょっとした本が何冊も書ける分量になります。よくこんなに続いたと、自分でも思います。続けられたのは、読んでくれる人がいたからです。「この前の記事、面白かったよ」と店で言ってもらえる、その一言が次の一本の燃料でした。感想をくださる方、記事をきっかけに相談に来てくださる方、ただ黙って読んでくださる方。そのすべてが、この暖簾を風になびかせ続けてくれています。宣伝の上手さでは、大きな会社にはかないません。それでも、正直に書いた三百本は、こつこつ積んだ私たちの財産です。四百本目でも、この店は変わらずここにいます。読んでくださって、ありがとうございます。この先も、店先の会話から生まれた小さな発見を、あわてず、こつこつ書き留めていきます。
これからも、この方針で
検索の世界がどう変わっても、この三つの決まりは変えません。本当のことを、敵を作らず、読んだ人の得になるように。岩手・盛岡のD'STYLEの読み物は、店の外まで届く暖簾です。くぐるかどうかは、いつでもあなたの自由。今日も暖簾は、風に揺れています。
写真: Jniemenmaa 10:17, 27 June 2006 (UTC) (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



