フィンランドの冬の街を歩くと、窓辺に、店先に、墓地にまで、キャンドルの灯りがゆれています。日照の短い北国の人たちは、電気の時代になっても、小さな炎の灯りを手放しませんでした。暗さを嘆くかわりに、暗さを灯りで飾る。今日は、その知恵をサウナの夜に借りる話。キャンドルひとつで、いつもの夜サウナが、小さな儀式に変わります。

北欧の人が、炎を手放さない理由
理由は、炎の灯りが「暗さを消さない灯り」だからです。電球は部屋を明るくしますが、キャンドルは、暗闇の中に小さな灯りの島をつくるだけ。まわりの闇は、そのまま残る。夜のサウナに必要なのは、この「闇を残す灯り」なのです。フィンランドでは十一月の諸聖人の日、家族が墓地に赴いてろうそくを灯し、雪の墓地一面が無数の炎で光る「光の海」になります。生者が死者を思う灯りが、冬のいちばん暗い季節に灯される。ゆらめく小さな炎は、目を休ませ、心拍を静め、時間の流れをゆるめてくれる。薪ストーブの炎の、手のひらサイズ版だと思ってください。(暗さの価値はこちら、炎のゆらぎはこちら。)
炎のゆらぎに、なぜ癒されるのか
ろうそくの炎を、いつまでも眺めていられるのには、理由があるとよく言われます。炎のゆらめきや、小川のせせらぎ、木漏れ日といった自然のゆらぎには、規則正しさと不規則さがちょうど程よく溶け合った、独特のリズムがあると言われます。予測できそうでできない、その微妙な揺れ方が、人の心を深いところから心地よくゆるめてくれる。薪ストーブの炎に見入って時間を忘れるのも、同じ仕組みです。夜サウナの外気浴で、火明かりをぼんやり眺める時間は、ただ暗いのではなく、上等な休息そのもの。テレビの光とは、体の休まり方がまるで違います。
置き場所は、サウナ室の外
大事な注意から。火のついたキャンドルは、サウナ室の中には持ち込まないでください。高温の室内は蝋が溶け崩れますし、裸火の持ち込みは事故のもとです。キャンドルの持ち場は、サウナ室の外。脱衣スペースの棚の上、外気浴の椅子の足元、小屋までの通り道。ガラスのホルダーやランタンに入れて、倒れない・燃え移らない場所に置くのが鉄則です。まわりに衣類やタオルを垂らさないこと、風のある屋外は必ずランタン型にすること。そして、その日の最後の一本を吹き消したか、就寝前の消し忘れ確認まで含めて、キャンドルの作法です。(火の始末の話は、こちら。)
電池式という、賢い選択
正直に言えば、最近のLEDキャンドルは、よくできています。炎のゆらぎを模した灯りは、数歩離れれば見分けがつかないほど。風でも消えず、倒れても燃えず、消し忘れても安心です。特に外気浴まわりや、小さなお子さんのいる家では、電池式が賢い選択。生きた炎は目の届く脱衣所の一本だけにして、外や足元は電池式、という使い分けが、私たちのおすすめです。香りを楽しみたい日は、火の灯りとアロマキャンドルを一箇所にまとめ、あとは電池式で灯りの島を増やしていく。この合わせ技が、安全と情緒を、無理なく両立させてくれます。
キャンドルナイト・サウナのすすめ
月に一度、家の照明を落として、キャンドルと火明かりだけで過ごす夜をつくってみてください。サウナで汗を流し、灯りの島をたどって外気浴へ。テレビもスマホも消して、炎だけを眺める。冬の停電の夜が怖くなくなる予行演習にもなって、何より、家族の記憶に残る夜になります。日本でも夏至と冬至の頃に「でんきを消して、スローな夜を」と呼びかけるキャンドルナイトの取り組みが、長く続いてきました。あなたの家の夜も、年に何度か、炎ひとつ分の明るさまで落としてみませんか。
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