除雪のあと、乾いた頬がぱりぱりと突っ張る。岩手の冬はそういう季節です。汗をかく機会が減り、暖房と厚着で肌をこすりがちになる。そんな時期にふと思い出したのが、汗そのものの中身を調べた古い研究でした。汗は汚れではなく、汗腺が分泌する液体で、そこには菌を抑えるはたらきを持つとされる成分が含まれている、という報告です。今回はその研究の内容を丁寧にたどりながら、岩手で自宅サウナを施工してきた立場から、発汗という行為そのものについて考えてみます。
汗をかく回数が減る季節に
盛岡の冬、外に出れば除雪と雪かきで体は動きますが、汗ばむところまでは行きません。厚手のコートの下で軽く湿る程度で、夏場のように滴るような汗はまず出ない。そのぶん皮膚は乾いた空気と暖房にさらされ続けます。当店のショールームでも冬場の室内湿度を測ると、暖房を入れた日は30%台まで下がることがあります。外は氷点下、室内は乾燥した暖気という組み合わせは、盛岡や岩手の内陸部では珍しくありません。肌の表面がかさつき、頬がぱりぱりと突っ張るように感じるのも、この季節特有の環境が影響していると考えられます。乾いた季節に、あえて「汗をかく」という行為の意味を考えたくなり、汗の成分を調べた研究を読み返しました。汗という現象を、単なる体温調節の仕組みとしてだけでなく、皮膚の表面で何が起きているかという視点から見直してみたいと思ったのがきっかけです。

汗は汚れではなく、分泌液である
汗腺、なかでもエクリン腺と呼ばれる腺は、水分や塩分だけでなく、いくつかのたんぱく質やペプチド(小さなたんぱく質の断片)も一緒に分泌しています。汗というと運動後のべたつきや臭いのイメージが先に立ちますが、成分としてはさまざまな生理活性物質を含む複雑な分泌液であることが、これまでの研究で分かってきました。2005年にRieg Sらが The Journal of Immunology 誌に発表した研究は、その中の「ダームシジン(DCD)」と呼ばれるペプチドに着目したものでした。ダームシジンはエクリン腺から常時分泌されている成分で、皮膚表面の菌に対して抑制的にはたらく性質を持つとされています。分泌された前駆体タンパクが汗の中でいくつかの断片(DCD-1、DCD-1Lなど)に加工され、それぞれが異なる抗菌活性を持つと報告されている点も、この研究の特徴です。汗が単に体温を下げるための水分ではなく、皮膚を守る仕組みの一部を担っている可能性を示す内容でした。
健常者とアトピー性皮膚炎患者を比べた結果
この研究では、健常な人とアトピー性皮膚炎の患者の汗を採取し、DCD-1やDCD-1Lといった関連ペプチドの量を比較しています。結果は、アトピー性皮膚炎の患者の汗では、これらのペプチドが健常者より有意に少なかったというものでした。さらに実際に人の皮膚で試した試験(in vivo試験、実際の生体で行う試験という意味です)では、健常な人は発汗によって皮膚表面の生きた菌の数が減少したのに対し、患者では同じような減少が見られなかった、と報告されています。研究チームはこの差について、皮膚バリア機能の低下や炎症の状態が、ダームシジンの分泌量そのものに影響している可能性を考察しています。汗をかくこと自体が、皮膚表面の環境に何らかの形で関わっている可能性を示す結果ですが、これは特定の疾患を持つ集団と持たない集団を比べた基礎研究であり、健常な人の発汗習慣を変えることで同じ差が生まれるかどうかまでは、この研究だけでは分かりません。
にきびの患者で汗中濃度が14分の1だった報告
関連する研究として、北里大学のNakano Tらが2015年にActa Dermato-Venereologica誌に発表した報告があります。炎症性ざ瘡(にきび)の患者と健常者の汗中DCD濃度を比較したもので、患者群の中央値は9.8μg/ml(範囲6.9〜95.3)、健常者群は136.7μg/ml(範囲45.4〜201.6)と、統計的に有意な差(p=0.001)がありました。単純に計算すると健常者の約14分の1という開きです。数字だけを見ると衝撃的にも見えますが、この研究はあくまで横断的な比較であり、DCD濃度が低いことが原因でにきびができるのか、それとも炎症の結果としてDCD濃度が下がるのか、因果関係までは特定されていません。また、これは特定の皮膚疾患を持つ人と持たない人を比べた研究であり、健常な人が汗をかけばかくほど良いという結果ではありません。ここで扱われている疾患名は、あくまで研究の対象としての事実であり、この記事はサウナによる治療や予防、改善を示すものではありません。読み物として研究の内容を紹介する以上のことは、この記事では述べません。


現場で見てきた、汗が出はじめるまでの時間
施工の現場では、サウナに入ってから実際に汗ばむまでの時間は、石の量とストーブの出力、それに室内の広さで大きく変わります。石が少なすぎると熱が体の芯まで届く前に上段だけが熱くなり、逆に石が多すぎると温まるまでに時間がかかりすぎる。当店では引き渡しの際に、その方のサウナ室の容積に合わせた石の目安量と、ロウリュ(石に水をかけて蒸気を出すこと)を足すタイミングを説明しています。ベンチの高さも関係していて、下段と上段では体感の熱の届き方が違うため、最初は下段からゆっくり慣らすようおすすめしています。実際に岩手県内で施工したお宅でも、最初の数回は下段で5分ほど過ごしてから上段に移る、という慣らし方をされる方が多く、無理に長く入ろうとせず自分の汗の出方に合わせて調整するのが結果的に続けやすいという声をよく伺います。

拭くときは押さえる、というだけの話
納品時にもうひとつお伝えしているのが、汗を拭くときの動作です。ごしごしとこすらず、タオルで押さえるように拭く。これは化粧品的な効能を謳うものではなく、単純に肌への摩擦を減らすための実務的な習慣です。ダームシジンのような成分の話を知っていると、「汗は拭き取って終わり」ではなく、皮膚の上でどんな役割を持っているかを少し想像しながら過ごせるようになります。答えを断定するものではありませんが、知っておいて損はない視点だと思います。あわせて、汗をかいたあとは水分と塩分の補給も忘れずに、というのも現場で必ずお伝えしていることです。サウナ室内は思っている以上に発汗量が多く、特に岩手の冬場は室外との温度差が大きいぶん、体への負担も夏場とは異なります。無理のない範囲で、休憩をはさみながら入るようおすすめしています。

岩手の冬だからこそ、続けやすい仕組みを
施設のサウナに通うとなると、盛岡の中心部からでも片道30分近くかかる方は珍しくありません。冬道の運転を考えると、週に一度がやっとという方も多いはずです。自宅の庭や車庫脇に3畳ほどのサウナがあれば、天候や道路状況に関わらず、思い立ったときに汗をかける環境ができます。研究が示しているのは特定の成分の量であって、サウナに入れば必ず何かが改善するという話ではありません。それでも、乾いた季節に汗をかく機会そのものが減っている今、続けやすい仕組みを持つことには意味があると、施工に携わる立場として感じています。当店でこれまで手がけてきた自宅サウナも、規模や間取りはさまざまですが、共通しているのは「日常の動線の中に無理なく組み込まれている」という点です。特別な外出をしなくても汗をかける環境があること自体が、冬の岩手で暮らすうえでのひとつの選択肢になり得ると考えています。
汗は汚れではなく、体が分泌している液体です。その中には、皮膚の環境に関わるとされる成分も含まれています。今回紹介した研究は、健常な人と特定の皮膚疾患を持つ人の汗を比べたものであり、サウナに入ることで肌の状態が改善するという結果ではありません。あくまで研究の紹介として受け止めていただければと思います。岩手の冬は汗をかく機会そのものが減りやすい季節です。だからこそ、自宅で無理なく続けられる環境を整えることには意味があると、盛岡で施工を続けてきた立場から感じています。持病のある方、服薬中の方、皮膚の症状に不安のある方は、必ず主治医や皮膚科医にご相談のうえでご利用ください。本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Rieg S, et al. The Journal of Immunology. 2005;174(12):8003-8010. PMID 15944307
- Nakano T, et al. Acta Dermato-Venereologica. 2015;95(7).
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



