ヘルシンキの海沿いに、「ロウリュ(Löyly)」というサウナと飲食店の複合施設があります。前回の記事で紹介したアヴァント(氷穴水浴)を見たのも、この施設でのことでした。ロウリュには薪で焚くサウナが3つあり、そのひとつが伝統的なスモークサウナです。都市部の施設でスモークサウナを備えているのは、フィンランドでも珍しいとされています。

扉を開けると、何も見えなかった
外から中の様子をうかがっても、人がいるのかどうかも分からないほどの暗さでした。スモークサウナは煙突を持たず、焚いたあとの煙を室内に充満させてから排煙し、余熱で温まった状態で使います。灯りをほとんど置かないのも、伝統的なスモークサウナの作法のひとつです。扉を開けて中に入っても、目が慣れるまでは、そこに何人いるのかさえ分かりませんでした。
手探りで座る場所を探していたところ、アメリカから来ていたご夫婦のあいだに、そのまま座ってしまいそうになりました。暗闇の中でお互いに気づき、笑いが起きた。これは、灯りに慣れた明るいサウナ室では、まず起こらないやりとりです。スモークサウナならではの出来事だったと思います。
なぜ、真っ暗にするのか
スモークサウナの暗さには、単なる雰囲気づくり以上の意味があるとされています。煙突を持たないぶん構造がシンプルで、薪の炎そのものではなく、煙で満たされた室内の余熱と、蓄熱した石の輻射熱で体を温めるのが基本の仕組みです。灯りを抑えるのは、この輻射熱を主役にした、静かな入り方を保つためだといわれています。ロウリュのような都市部の施設で、あえてこの様式を残しているのは、効率よりも伝統を優先した選択だと感じました。
言葉がなくても、成立する空間
暗闇の中で誰かとぶつかりそうになり、笑い合う。国も言葉も違う者どうしが、それで自然と打ち解ける。以前リトアニアのスモークサウナを紹介した記事でも書きましたが、サウナという空間は、言葉の壁を越えやすい場所だとあらためて感じます。今回はその極端な例として、真っ暗な部屋という条件が、かえって人と人の距離を縮めていました。
リトアニアとは違う、フィンランドの上品さ
同じスモークサウナでも、リトアニアとフィンランドでは施設の雰囲気に違いがありました。リトアニアが素朴で土着的な作りだったのに対し、フィンランドの施設は、お金がきちんとかかっている、上品な仕上がりのところが多いという印象です。
そしてなにより、フィンランドの人たちは湿度を上げるのが本当に好きです。ロウリュをためらわず、ガンガンとかけていく。この積極性そのものが、フィンランドサウナの醍醐味のひとつだと感じました。温度自体はそれほど高くなくても、湿度が高いぶん息苦しさがなく、長く座っていられる。換気のバランスが良いからこそ成り立つ入り方です。日本の乾いた高温サウナに慣れていると、この「低めの温度・高い湿度」という組み合わせは、少し意外に感じるかもしれません。

岩手で、暗さを取り入れるなら
本場のスモークサウナをそのまま自宅に再現するのは、煙突を持たない構造上、法規や換気の面で難しい面があります。ただ、「明るすぎない」という発想だけなら、家庭用のサウナにも取り入れられます。灯りを最小限にし、輻射熱を主役にした落ち着いた空間をつくる。これは設計の工夫だけで実現できます。
当社でサウナをご提案する際も、照明を煌々とつけるより、間接照明程度に抑えたほうが、長く落ち着いて過ごせるというお声をよくいただきます。ロウリュのスモークサウナほど徹底した暗さでなくても、「暗さを味方にする」という発想は、日本の住宅にも十分持ち込めるものだと思います。
よくあるご質問
Q. スモークサウナと普通のサウナは、何が違いますか。
スモークサウナは煙突を持たず、焚いたあとの煙を室内に充満させてから排煙し、余熱と蓄熱した石の輻射熱で温まる様式です。一般的なサウナは煙突を通して煙を排出しながら焚き続けます。
Q. なぜスモークサウナは暗いのですか。
輻射熱を主役にした静かな入り方を保つためとされています。灯りを抑えることが、伝統的な様式のひとつになっています。
Q. 自宅サウナでも真っ暗にできますか。
照明を最小限にした落ち着いた空間づくりは可能です。スモークサウナそのものの構造の再現は法規・換気の面で難しい場合があります。ご興味があればご相談ください。
D'STYLEは岩手・盛岡で、ハルビアのサウナストーブとサウナ室の設置をしています。灯りの取り方ひとつでも、サウナの居心地は大きく変わります。岩手県はもちろん、秋田県・青森県まで伺います。
参照した情報源
- Löyly Helsinki 公式サイトおよび各種紹介記事(ヘルシンキ・ヘルネサーリ地区の複合施設。薪で焚く3つのサウナ(連続的に焚くサウナ・朝一度焚いて夜まで温かさを保つサウナ・伝統的なスモークサウナ)を備える。2018年Time誌「世界の偉大な場所100選」に選出)
本記事はフィンランドでの見聞の記録です。







