サウナと免疫の研究には、一回入って血を採ったものが多くあります。そのなかに、同じ二十人に十回入ってもらい、一回目と十回目を比べた報告があります。著者は結びで、免疫の反応がよくなるのは単発ではなく一連の施行として行った場合に限られる、と結論しました。今日はその二十人の試験と、同じ研究グループの九人ずつの報告を、差が出なかった項目まで含めて読みます。そのうえで、十回という回数を岩手の冬の暮らしに置き換えてみます。

薪を十回分、数えてみる
十一月の終わりに、薪棚の前でしゃがんで薪を数えることがあります。サウナを一回焚くのに、乾いたナラでどれくらい要るか。腕にひと抱え半、といったところでしょうか。それを十回分。棚の端から目で測って、だいたいこのあたりまでだな、と見当をつける。
なぜ十回なのか。
サウナと免疫の研究を読んでいて、「十回」という数字を条件にした報告に行き当たったからです。一回入って、その前後で血を採る。そういう研究はいくつもあります。けれどその報告は、同じ二十人に十回入ってもらい、一回目と十回目を比べていました。そして著者は、論文の結びでこう結論しています。免疫の反応がよくなるのは、単発ではなく一連の施行として行った場合に限られる、と。
一回では足りない。研究者がそう書いた、という話です。
盛岡でサウナと薪ストーブの仕事をしていると、「何回入ればいいんですか」と聞かれることがあります。正直に申し上げると、私たちに答えは出せません。効くとも効かないとも言えません。ただ、研究がどんな回数を、どんな条件で測ったのか。それはそのまま並べてお伝えできます。今日はその話です。人数の小ささも、差が出なかった項目も、省かずに書きます。
二十人が、三セット十五分を、十回
もとになったのは、International Journal of Hyperthermia という専門誌の二〇二三年の報告です(Pilch W、Szarek M ら。PMID 36813265)。
対象は、二十歳から二十五歳の健康な男性二十人。そのうち十人が日ごろ体を鍛えている群、残る十人が特に鍛えていない群として分けられています。研究の言葉では鍛錬群と非鍛錬群。名前は堅いですが、要は運動している人たちと、していない人たちを、十人ずつ並べたということです。
入り方はこうでした。十五分入って出る。二分冷やす。これを三回くり返して一日分。それを合計十回。
採血は、一回目の前と後、十回目の前と後です。つまり、初日に入る前、初日に入った後、十日目に入る前、十日目に入った後。四つの時点の血を比べています。
同じ人の血を、間を空けて二度採る。この設計には意味があります。体格も、食べているものも、住んでいる場所も同じ人の中での変化を見るので、人と人を比べるときのような、生活の違いによる散らばりが入りにくい。逆に言えば、途中の二回目や五回目がどうだったかは、この紹介の範囲では出てきません。見ているのは、はじめと終わりの二点です。
「十回」は、研究が見つけた境目ではありません
ここで、ひとつ念を押しておきたいことがあります。
十回という数字は、研究が見つけた境目ではありません。研究者が、はじめにそう決めただけです。
三セット十五分という入り方も、二分のクールダウンも、十回という回数も、実験を始める前に設計として決められた条件です。ですから、十回でスイッチが入るとか、九回では足りないといった読み方は、この報告からはできません。八回だったらどうだったのか、十五回ならどうだったのかは、誰も測っていないのです。
わかったのは、一回目の入り方と、十回目の入り方とでは、血液の指標の動き方が同じではなかった、ということ。それ以上でも、それ以下でもありません。
健康診断の基準値も、もとをたどれば誰かが引いた線です。線の内側と外側で、体が急に別のものに変わるわけではない。研究の条件も同じで、十という数字は自然の中にある区切りではありません。
こんな細かいことを、と思われるかもしれません。けれど、事前に決めた区切りを、あとから研究が発見した境目のように書き換えてしまうと、そこから先の話は全部あやしくなります。薪の含水率と同じで、はじめの数字を勝手に丸めると、あとの計算が全部ずれる。ですからここは、面倒でも正確に書いておきます。
差がなかったもの、違いが出たもの
では、何がどう違ったのか。差が出た項目と、出なかった項目の両方を書きます。
群のあいだで差がなかったと報告されているのは、三つです。ひとつめは直腸温の上がり方。体の芯の温度をお尻から測ったもので、脇に体温計を挟んで測るより、深いところの温度に近い数字です。ふたつめはコルチゾール。体が負荷を受けたときに出るホルモンです。三つめは免疫グロブリン、つまり抗体の増え幅。この三つは、鍛えている十人と鍛えていない十人とで、増え方に差がなかったとされています。
一方、群によって反応が異なったと報告されているのが、白血球、CD56+、CD3+、CD8+、IgA、IgG、IgM です。記号が続くので、ひとつずつ噛み砕きます。CD3+は、免疫細胞のうちTリンパ球という一群につく目印。CD8+は、そのTリンパ球の中のさらに一部につく目印。CD56+は、NK細胞などにつく目印です。IgA・IgG・IgM は、いずれも抗体の種類の名前で、Ig は免疫グロブリンの略。細胞につけた名札と、抗体の型番のようなもの、とお考えください。
お気づきの方もいると思います。免疫グロブリンの増え幅には群間差がなかったと書かれている一方で、IgA・IgG・IgM の反応は群で異なったとも書かれている。同じ論文の中に、見え方の違う記述が同居しています。私たちはこれを、どちらか一方に丸めません。読みやすくするために片方を消すと、それはもう元の報告ではなくなるからです。
そして、いちばん大事なこと。人数は合計二十人、比べているのは十人と十人です。少ない。年齢は二十歳から二十五歳、全員が健康な男性です。この記事をゆっくり読んでくださっている方の多くとは、年齢も、おそらく性別も違います。女性は入っていません。持病のある方も入っていません。海外の専門誌に載った報告であって、日本の暮らしを対象にしたものでもありません。
もうひとつ。測られているのは血液の中の指標であって、風邪をひいた回数ではありません。血の数字が動いたことと、冬を元気に越せることのあいだには、まだいくつも段があります。
九人ずつの、もう一つの報告
同じ研究グループから、もう一本あります。Journal of Human Kinetics の二〇一三年の報告です(PMC3916915)。
こちらは、中距離ランナー九人と、鍛えていない男性九人。合わせて十八人です。室温は九十六℃前後(±二℃)、湿度は十五%前後(±三%)。体の深部の温度が一・二℃上がるまで十五分入り、そのあと十九〜二十℃で二分冷やす。この条件で、白血球と単球(白血球の一種で、体の中の掃除役にあたる細胞)の増え幅が、ランナー群のほうが大きかったと報告されています。
九十六℃で湿度十五%というのは、かなり乾いて、かなり熱い部屋です。私たちが見てきた範囲では、日本の家庭用サウナで日常的に使われる設定より、ひと回り厳しい。当社のショールームで温度を上げていくと、九十℃を超えたあたりから、木の匂いの立ち方が変わってきます。そこからさらに数℃。研究の条件は、まねをするための数字ではありません。
この二本を並べると、変数が二つ見えてきます。ひとつは、続けたかどうか。もうひとつは、もともとの体力。ただしどちらも、九人・十人という規模です。ここから何かを断定するには、あまりに小さい。
つけ加えておくと、この二本は、実際にサウナに入ってもらって前後を測る介入試験です。後から生活を見比べる観察研究とは種類が違います。ただ、人数が二十人前後と小さいこと、そして病気になったかどうかを追ったものではないことは変わりません。ここから因果を広げて語ることはできません。

十回を、岩手の冬に置き換える
十回という回数を、岩手の暮らしに置き換えてみます。
週に二、三回のペースなら、ひと月弱。週一回なら、二か月半。カレンダーに丸をつけてみると、けっこうな長さです。
盛岡から車で通うとして、往復と着替えと待ち時間で、一回あたり二時間から三時間。冬はここに雪道が乗ります。朝の除雪で三十分、夜の道は圧雪でさらに時間がかかる。十二月から二月にかけて、日は四時半には暮れます。
私たちが見てきた範囲では、冬に施設へ十回続けて通える方は、そう多くありません。三回、四回で間が空いて、雪のひどい週をひとつ挟むと、そのまま春になる。これは意志の弱さの話ではなくて、単純に岩手の冬の話です。薪ストーブのお客様が、十一月には張り切って薪を運び、一月には玄関先の分だけで済ませるようになるのと、たぶん同じことです。
もちろん、続けて通う方もいます。ただその方はたいてい、職場の帰り道に施設がある、といった地理の条件を持っています。習慣は、気持ちよりも動線で決まる。現場で人の暮らしを見ていると、そう思います。
研究の言う一連の施行を、冬の施設通いで再現するのは、この土地ではなかなか骨が折れる。まず、そこを認めておきたいと思います。

三セット十五分を、家で本当にやれるか
では、家の中ならどうか。ここからは施工屋としての話です。
三セット十五分を計算すると、入っている時間だけで四十五分。あいだの二分ずつ、着替え、体を拭く時間を足すと、ひと通りで一時間から一時間半。夕食の前に、と考えると案外重たい時間です。設計の段階で、この一時間半を一日のどこに置くかは、実は間取りより先に決めておいたほうがよい項目だと考えています。
もうひとつ、薪サウナには電気ヒーターにない事情があります。温度が一定でないことです。
コントロールパネルで九十二℃と設定できる電気式と違って、薪のサウナストーブは、焚きつけてから熱がのぼり、薪が熾になれば落ちてきます。一セット目と三セット目で、同じ部屋の同じ段に座っても体感が違う。ですから、二セット目に入る前後で薪を足す。この追い焚きのタイミングを、外気浴に出るついでに組み込んでおくと、三セット目まで温度が保てます。お引き渡しのときに必ずお伝えするのは、この一手間です。
保ちを決めるのは、ストーブの出力と部屋の容積の関係、そしてサウナストーンの量です。石は熱をためて、ゆっくり返す素材です。鉄の面がじりじりと熱いのとは、熱の返り方が違う。石を多く積める機種ほど、薪が落ちてきたあとの三セット目が粘ります。
ハルビア(HARVIA)の薪サウナストーブでいえば、小さめの部屋にはエム3(WKM3)、標準的な広さならレジェンド150(WK150LD)、広い部屋や外気の冷える屋外バレルサウナにはレジェンド300(WK300LD)、といった選び方になります。薪をくべる手間を減らしたい方には、ペレットを自動で供給するペレットサウナストーブ、VENERE matic(ヴェネレ マチック)という選択肢もあります。岩手のように外気温が氷点下まで落ちる土地では、この容量の余裕が、そのまま三セット目の温度になります。

二分のクールダウンと、氷点下の外
冷やし方の条件も、そのまま持ち込まないでいただきたいところです。
研究で使われた冷却は、十九〜二十℃の水に二分。二〇一三年の報告のほうの条件です。十九℃というのは、夏場の水道水に近い温度です。ぬるいと感じる方もいるかもしれません。
岩手の冬は、まったく違います。外気は氷点下、水道水を張った水風呂は一桁の前半。同じ二分でも、体への入り方はまるで別物です。研究が二分と書いているから二分、という真似の仕方は、この土地では危ない。
外気浴も同じです。二セット目のあとに氷点下の外へ出れば、体は夏の何倍もの速さで冷えます。私たちが設計でいちばん気を遣うのは、実はサウナ室そのものより、脱衣所と外へ出る動線の温度です。裸で寒い廊下を歩かせない。座って休む場所に風が当たらないようにする。屋根のかかった一畳分のスペースがあるかどうかで、冬の使われ方が変わります。
そして、これは何度でも書きます。体調のすぐれない日は入らない。お酒を飲んだあとは入らない。持病のある方、薬を飲んでいる方、心臓や血圧のことで通院されている方は、入る前に必ず主治医にご相談ください。研究の条件は、健康な若い男性を対象に、管理された環境で設定されたものです。ご自宅での入り方の基準にはなりません。
回数が変わる、ということ
最後に、回数の話だけ書きます。
自宅にサウナを設置させていただいたお宅では、入る回数が変わります。体がどうなったという話ではありません。単純に、行き帰りの時間がゼロになるからです。冬の夜、玄関を出ずに、脱衣所から数歩で入れる。この距離の短さが、そのまま回数になります。
お引き渡しからしばらくしてお伺いすると、週に三回くらいですかね、毎晩ちょっとだけ、といった答えが返ってきます。逆に、最初のひと月で熱が冷めて、月に数回に落ち着く方もいます。どちらも正直な数字です。前者だけを並べて紹介するようなことは、私たちはしません。
ただ、研究が条件として置いた一連の施行(続けて入るという形)を作りやすいのは、通いよりも自宅のほうだ、というのは事実として申し上げられます。作りやすいことと、体に何かが起きることは、別の話です。そこは混ぜません。
薪棚の前に戻ります。十回分の薪は、思ったより少なくて、思ったより早くなくなります。数えた本数が減っていくのを見ながら、ああ続いているな、と思う。研究の書いた一連の施行という言葉を、私たちが実感として確かめられるのは、たぶんそのあたりまでです。
有限会社D'STYLEは、盛岡・国道四号沿いのショールームで、ハルビア(HARVIA)の薪サウナストーブや電気サウナヒーター、ペレットを自動供給するペレットサウナストーブ VENERE matic を、実際に火を入れた状態でご覧いただけます。岩手県内を中心に、屋内サウナ室の造作から屋外バレルサウナの設置まで承っています。回数を続けやすい家をお考えの方には、サウナ室だけでなく、脱衣所と外気浴スペースを含めた設計からのご相談をおすすめします。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。体調のすぐれない日やお酒を飲んだあとの入浴は避けてください。持病のある方・服薬中の方は、必ず主治医にご相談のうえご判断ください。
参照した研究
- Pilch W, Szarek M ら. International Journal of Hyperthermia, 2023(PMID 36813265):20〜25歳の健康男性20人(鍛錬群10人・非鍛錬群10人)が3×15分+2分クールダウンのサウナ浴を計10回実施。1回目と10回目の前後で採血。直腸温上昇・コルチゾール・免疫グロブリンの増加幅に群間差はなく、白血球・CD56+・CD3+・CD8+・IgA・IgG・IgMの反応は群で異なった。著者は免疫反応の改善は単発ではなく一連の施行として行った場合に限られると結論している。
- Pilch W ら. Journal of Human Kinetics, 2013(PMC3916915):中距離ランナー9人と非鍛錬男性9人が96±2℃・湿度15±3%で深部体温+1.2℃まで15分入浴し、19〜20℃で2分冷却。白血球・単球の増加幅はアスリート群で大きかった。
- いずれも20人前後の小規模な研究であり、疾病の予防や治療を示したものではありません。
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



