サウナと鼻の話は、春先の店先でいちばんよく聞かれます。今日は体験談ではなく、アレルギー性鼻炎の患者26人を6週間追ったタイの試験を、盛岡の施工屋の目で読んでみます。数字がきれいに見えたときほど、いったん立ち止まる。限界も一緒に書きます。
三月の朝、鼻から始まる一日
盛岡の三月は、雪と日差しが同居しています。北向きの軒下にはまだ固い雪が残っているのに、日の光だけが先に春になる。朝、車のフロントガラスにうっすらと黄色い粉が乗っていて、ワイパーを一往復させると筋になって残ります。あれを見ると、ああ今年も来たな、と思います。
目が覚めた瞬間に、もう片方の鼻が詰まっている。寝返りを打つと、詰まる側が入れ替わる。台所で味噌汁の湯気が立っても、匂いが半分しか届かない。この時期、そういう朝を過ごしている方は、岩手にも少なくないはずです。
だからでしょうか。三月から四月にかけて、店でよく聞かれます。サウナに入ると鼻が通るというのは本当ですか、と。
作業着姿のまま正直に答えるなら、「通った気がする日はあります」。それが本当のところです。ただ、気がする、で終わらせたくない質問でもある。
そこで今日は、体験談ではなく研究を一本、時間をかけて読んでみます。ただし褒めるために読むのではありません。疑いながら読みます。数字がきれいに見えたときほど、いったん立ち止まる。この記事は、そういう読み方の練習でもあります。

まず、この研究が「誰を」見たものかを書きます
読むのは、2013年にAsian Pacific Journal of Allergy and Immunologyという専門誌に載った報告です(PMID 23859414)。
対象は、タイのアレルギー性鼻炎の患者26人。男性12人、女性14人。この26人を、対照グループ13人と、サウナに入るグループ13人に割り付けています。割り付けというのは、参加者を研究者が二つの組に振り分けること。似た者同士を並べて比べられるようにするための手続きです。
サウナ群のやり方はこうです。週3日。1回5分のサウナを6セット。セットとセットの間には5分の休憩をはさむ。これを6週間続けました。
先に限界を置いておきます。タイの26人です。日本人ではありません。岩手の人でもない。花粉の種類も、湿度も、冬という季節の有無も違う土地の話です。26人という人数は、公民館の一室に集まれば全員が椅子に座れる程度の数でしかありません。
男性12人、女性14人という内訳も書いておきます。日本の記事では性別の内訳が落ちがちですが、女性がごく少ない研究、男性しかいない研究というのは、サウナの研究の世界にはかなりあります。その点でいえば、この研究は偏りが小さいほうです。
それでもこの研究に読む値打ちがあると思うのは、比べる相手を置いているからです。「入った人が良くなった気がした」ではなく、「入らなかった13人と並べてどうだったか」を見ている。ここが、私たちが日々耳にする体験談との決定的な違いです。体験談には、入らなかった自分がいません。
最大鼻吸気流量という、耳慣れない物差し
この研究が主に測ったのは、最大鼻吸気流量。英語の頭文字でPNIFと書かれます。名前は難しいのですが、していることは単純です。口を閉じて、鼻から思い切り息を吸い込む。そのときの空気の流れの勢いを、器械で測る。鼻の通り具合を、感想ではなく数字にするための道具です。
6週間後の値は、対照グループが103.0、サウナグループが161.9。統計上、有意な差だったと報告されています。有意というのは「偶然のばらつきでは説明しにくい差」という意味です。「大きい」「効いた」という意味ではありません。ここは本当に混同されやすいので、繰り返しておきます。
もう一つ、FEV1という指標も出ています。日本語では一秒量。息をいっぱいに吸い込んでから、最初の1秒間でどれだけ吐き出せるかを見る値で、こちらは鼻ではなく気道と肺の通りを映します。対照80.1に対して、サウナ群95.6。やはり有意に高かったと報告されています。
ちなみにPNIFは、その場の状態を映す数字でもあります。測る直前に鼻をかんだか、部屋が乾いていたか、そういうことでも動く。6週間という期間をとって、対照グループと並べて比べる意味は、そこにもあります。
数字の単位は、ここではあえて書きません。原著の表記を離れて単位を補うと、それだけで話が一人歩きするからです。見ていただきたいのは絶対値ではなく、二つのグループの間に差があったと報告されている、という事実のほうです。
ここで筆を置けば、気持ちのいい記事になります。置きません。同じ研究が、別の顔の数字も出しているからです。
同じ研究が出した、もう一つの数字
この研究は、自律神経の指標も測っています。心拍変動――心臓が打つ間隔の、ごく細かい揺れ――から計算されるものです。脈は一定に打っているようでいて、実は一拍ごとにわずかに伸び縮みしている。その揺れ方から、体のアクセルとブレーキの働き具合を推し量ります。
報告された値はこうです。HFが51.8から35.4へ。LFが48.1から64.5へ。二つの比であるLF/HFが0.9から2.5へ。研究者はこの動きを、交感神経が優位な方向への変化と表現しています。交感神経は、体でいえばアクセル側の神経です。
つまり、鼻の通りの指標がサウナ群で高かったと報告された同じ研究で、自律神経の指標はアクセル寄りに動いた、と報告されている。「サウナはリラックス」という世間のイメージとは、向きが逆に見える結果です。
この動きが体にとって良いのか悪いのか、この数字だけでは言えません。それでも、都合のいい数字だけを抜き出さないために、こちらも並べておきます。片方だけ見せる紹介は、その時点でもう研究の紹介ではなくなってしまうからです。
26人という数の、軽さと重さ
26人。人数が少ない研究では、たった一人の極端な値がグループ全体の平均を動かします。だからこそ、同じ試験をもう一度やって同じ結果が出るかどうかの確かめが要る。小さな研究の数字は、結論ではなく手がかりです。
参考として、もう一本だけ古い報告を紹介します。1989年、Archives of Physical Medicine and Rehabilitationという雑誌に載ったものです(PMID 2596966)。閉塞性肺疾患のある男性12人で、努力肺活量――思い切り吸い込んでから、吐き切るまでの量――が3.22±0.89Lから3.60±0.99Lへ変わり、気管支の攣縮(気道が縮んで狭くなること)は誘発されなかったと報告されています。
±のうしろの数字は、人による散らばりの幅です。3.22に対して0.89ということは、2L台の人も4L台の人も同じ12人の中にいるということ。平均の差0.38Lは、その散らばりの中に沈みかねない大きさです。しかも12人、今から30年以上前の報告。限られた材料として扱うのが筋だと思います。
そしてもう一つ、大事なこと。26人の研究と12人の研究は、国も、対象の病気も、測った指標も違います。まったく別の人たちですから、足し算して「38人で確かめられた」とは言えません。研究を並べるときに、人数を合計して大きく見せる。それが、いちばんやってはいけないことです。

5分×6セットは、研究が見つけた正解ではありません
ここは取り違えやすいところです。週3日、5分を6セット、6週間。この数字は、研究者が最初に決めた実施の設計です。研究が「5分×6セットがいちばん良い」と発見したわけではありません。設計と発見を混ぜると、数字が独り歩きします。
計算してみます。5分入って5分休むを6回繰り返せば、休憩を含めて1時間近く。それを週3日、6週間続ければ18回です。
岩手でこれを施設通いで再現するのは、正直に言って簡単ではありません。冬から早春の道路は朝晩凍ります。片道30分の往復に着替えと待ち時間を足せば、一回が半日仕事になる。私たちが自宅サウナを引き渡したお宅で伺うのも、多くは「行く回数」ではなく「入る回数」が変わったという話です。距離がなくなると、回数の設計そのものが変わる。効いた効かないの話ではなく、単純に回数の話として、そうなります。
施工屋としての読み方も書いておきます。5分で出る前提なら、室温を上げすぎない設計のほうが向きます。逆に上段だけ極端に熱い部屋だと、5分でも長すぎることがある。薪サウナは火の勢いで温度が上下しますから、短く区切って何度も入るなら、追い焚きのタイミングを人が握ることになります。電気ヒーターは設定温度を保ちやすい。どちらが優れているという話ではなく、「短く何度も」と「長く一度」では、選ぶ機械も、積む石の量も、換気の取り方も変わる、ということです。

花粉が違う。空気が違う
タイの研究です。あちらの鼻炎は、季節を問わない通年性のものが中心だと聞きます。岩手の春はスギ。サウナの本場フィンランドは白樺。同じ「花粉」という言葉でも、飛ぶ時期も量も、暮らしの中での付き合い方も違う。土地が違えば、鼻が詰まる背景も違います。
もう一つ。私たちが読み取れた範囲では、この研究の記述にサウナ室の温度も湿度も出てきません。分けているのは「サウナに入ったかどうか」だけです。つまりあの数字は、入り方の細かさまでは説明していない。ロウリュを打ったのか、乾いたままだったのか、そこは書かれていないのです。
そのうえで、現場の感覚を書きます。岩手の冬から早春、暖房を焚いた家の室内は、私たちが伺うお宅の温湿度計で30%を切っていることが珍しくありません。薪ストーブの前は、頬が乾くのがわかるほど空気が乾きます。それに対して、サウナ室で熱した石に水をかけたとき――ロウリュです――立ちのぼる蒸気は、まず鼻の奥の乾いたところに触れる。同じ「熱い場所」でも、乾いた熱と湿った熱とでは、鼻から下への入り方がまるで違います。
ただし、今のは体感の話であって、研究が測ったものではありません。並べて書きますが、混ぜません。
入る前に、主治医のこと
鼻炎の薬を飲んでいる方、血圧や心臓の薬を続けている方は、サウナを始める前に主治医に一度相談してください。これは記事の決まり文句ではなく、店頭で実際にお願いしていることです。
店頭でいちばん多いのは、「家族が花粉症なので、サウナを付けたら楽になりますか」という聞き方です。そう聞かれたとき、私たちは楽になりますとは言いません。言えないからです。代わりにお話しするのは、こういう研究があるということ、それがタイの26人の報告であるということ、そして日々どう使うつもりかという設計の話です。
そして、体調の悪い日は入らない。熱いのを我慢しない。喉が渇く前に水を飲む。年配の方は、家族に一声かけてから入る。冬の岩手では脱衣所と外との温度差も小さくありませんから、そこの設計まで含めて考えます。長く入るほど良いということは、ありません。
紹介した二つの研究は、いずれも少人数の報告です。病気を治すこと、防ぐことを示したものではありません。アレルギー性鼻炎の治療は医療の領域の話です。私たちは火と木と煙突の職人であって、医療の専門家ではない。その線は、はっきり引いておきます。

湯気のある場所が、家にあるということ
三月の朝、鼻が詰まったまま起きて、雪をどけて、出かける。岩手の春先はそういう季節です。数字がどうであれ、その一日の終わりに湯気の立つ場所が家の中にあるかどうかは、暮らしの手ざわりとして違うと思っています。
研究は、そこまでは教えてくれません。26人の数字は、26人の数字です。読んで、疑って、限界を書き添えて、それでも残るものだけを持ち帰る。読みものを書き続けてきて、いまのところそれがいちばん誠実なやり方だと思っています。
外はまだ雪。窓から見える煙突から、白い煙がまっすぐに上がっていく。そういう夕方が、今年もあと何度か残っています。
有限会社D'STYLEは、岩手・盛岡で薪ストーブと薪サウナ、ペレットサウナ、電気ヒーターの自宅サウナを、設計から設置まで手がけています。ハルビアの薪サウナヒーター レジェンド150(WK150LD)のように蓄熱するサウナストーンを多く積める機種は、ロウリュのときの蒸気の出方が変わります。短く何度も入りたい方と、長くじっくり派の方とでは、おすすめする機種も部屋の設計も変わりますので、ショールーム(盛岡・国道4号沿い)でお聞かせください。設置のご相談はいつでもどうぞ。
持病のある方、お薬を続けている方は、主治医にご相談のうえで。
本記事は研究の紹介であり、サウナの設置・使用による疾病の予防や治療の効果を示すものではありません。
参照した研究
- Asian Pacific Journal of Allergy and Immunology, 2013(PMID 23859414)/アレルギー性鼻炎のタイ人患者26人(男性12人・女性14人)を対照13人とサウナ13人に割り付け、週3日・5分×6セット(間に5分休憩)を6週間実施。最大鼻吸気流量(PNIF)は対照103.0に対しサウナ群161.9、FEV1は80.1に対し95.6と有意に高値。心拍変動はHF 51.8→35.4、LF 48.1→64.5、LF/HF 0.9→2.5と交感神経優位方向へ変化
- Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 1989(PMID 2596966)/閉塞性肺疾患の男性患者12人でFVCが3.22±0.89Lから3.60±0.99Lへ変化し、気管支攣縮は誘発されなかったと報告。12人・古い研究であり限定的な報告
- いずれも少人数の研究であり、疾病の治療や予防を示したものではありません
この記事は研究の紹介であり、効果を保証するものではありません。持病のある方、通院中・服薬中の方は、主治医にご相談のうえご利用ください。



