北東北・秋田編、今日の話は、私たちサウナ屋が思わず膝を打つ料理です。男鹿の石焼き。秋田県の男鹿半島に伝わる、漁師の豪快な郷土料理です。火で真っ赤に焼いた石を、魚の入った桶にそのまま投げ込んで、汁を一気に沸かす。この作り方、じつはサウナの原理とそっくりなのです。
石で、汁を沸かす料理
石焼き料理は、鍋を火にかけて煮る、ふつうの調理とはまるで違います。まず、専用の石を炭火や薪の火で、真っ赤になるまで焼き上げます。その間に、木の桶に水を張り、旬の魚と、ねぎや野菜を入れておく。石が十分に焼けたら、火ばさみでつかんで、桶の中へ投げ込みます。すると、じゅうっという激しい音と、もうもうとした湯気とともに、桶の中の汁が一瞬で煮え立つ。真っ赤な石が持つ熱が、そのまま水に移って、汁を沸かすのです。仕上げに味噌を溶けば、熱々の魚の味噌汁のできあがり。火にかけた鍋では出せない、荒々しい熱の入り方が、この料理の身上です。石から一気に立ちのぼる湯気と、香ばしい魚と味噌の香り。目と鼻と耳のすべてで味わう、実に豪快な料理です。
男鹿石という、火に強い石
この料理に使うのは、どんな石でもよいわけではありません。男鹿半島でとれる、金石とも呼ばれる硬く緻密な石が使われてきました。男鹿は火山の活動でできた土地で、そこでとれる石は、火山が生んだ硬い石です。この石が選ばれるのには、はっきりした理由があります。急に強い火で熱しても割れにくく、しっかり熱をため込み、水に入れても砕けにくい。もろい石を使えば、水に入れた瞬間に割れて飛び散り、危険です。火に強く、熱をよくたくわえる石を選ぶ。この知恵は、サウナストーンの選び方と、まったく同じ考え方です。
漁師のまかないが、名物に
石焼き料理の始まりは、男鹿の漁師たちのまかないだと伝わります。船の上や浜辺で、とれたての魚を、手近な石と火で手早く食べる。鍋や道具を持ち込まなくても、石さえ焼けば、桶ひとつで熱い汁が作れる。冬の日本海でハタハタ漁に励む男鹿の漁師にとって、体を芯から温める石焼きの汁は、何よりのごちそうでした。その豪快で理にかなった調理法が評判を呼び、今では男鹿を代表する郷土料理として、旅の人をもてなす一品になっています。素朴なまかないが、土地の名物に育った、うれしい物語です。浜で受け継がれてきた知恵が、今も生きて旅の人を喜ばせている。土地の食は、こうして守られ、伝えられていくのです。
焼けた石と、サウナストーンは兄弟
ここまで読んで、気づいた方も多いはずです。焼いた石に水をかけて、一気に熱と湯気を立ち上げる。これは、サウナのロウリュとまったく同じ原理です。サウナでは、熱したサウナストーンに水をかけて、蒸気を浴びる。男鹿の石焼きでは、熱した男鹿石を汁に沈めて、料理を仕上げる。石に熱をため、その熱を水に移す。火と石と水と蒸気の関係を、片や料理で、片や入浴で使い分けているだけなのです。秋田の漁師とフィンランドのサウナ職人が、同じ火と石の知恵にたどり着いていた。この一致は、いつ考えても愉快です。海を隔てた遠い土地の人々が、火と石という同じ素材から、片や熱い汁を、片や心地よい蒸気を生み出す。人が火と付き合ってきた歴史の奥深さを、あらためて思い知らされます。
火と石と蒸気の暮らし
焼けた石が湯気を上げる。その一点で、男鹿の石焼きとサウナは、深くつながっています。岩手・盛岡のD'STYLEは、まさにその火と石と蒸気を扱う店です。ロウリュの蒸気に、男鹿の漁師のまかないを思い出す。そんな火の暮らしの楽しみ方を、店でご相談ください。石で沸かした熱い汁も、いつか囲んでみたいものです。
写真: Amine Charnoubi (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



