薪ストーブの前で、誰もが耳を澄ませる音があります。パチ、パチ、ときどきパンッ。薪のはぜる音です。焚き火の動画の再生数を支えているのも、半分はこの音でしょう。ところで、あの音の正体を、ご存じですか。今日は、火の音の科学と、音で薪と対話する話です。

あれは、水の弾ける音
パチパチの正体は、木のなかに残ったわずかな水分です。木の細胞の小部屋には、乾燥のあとも、少しの水分と樹液が閉じ込められています。火に炙られると、その水分がおよそ百度で一気に水蒸気へ変わり、体積が千倍以上にふくらんで、細胞の壁を内側から弾き破る。あの小気味よい破裂音は、木のなかの小さな水風船が、次々に弾けている音なのです。ときどき鳴る大きめのパンッは、節や樹脂のかたまりに溜まったガスが、勢いよく弾けた音。つまり、火の音は、木が何年もかけてため込んできた水と樹液の、最後の挨拶なのです。そう思うと、あの何気ない破裂音も、少し愛おしく聞こえてきます。
よく鳴る木、静かな木
樹種によって、音の性格ははっきり変わります。よく鳴るのは、針葉樹。スギやマツは樹脂が多く、パチパチと陽気に鳴りながら、勢いよく燃えます。焚き付けの時間がにぎやかなのは、彼らのおかげ。いっぽう、ナラやサクラ、クヌギなどのよく乾いた広葉樹は、比較的もの静かです。じっくり、低く、落ち着いて燃える。だから、焚きはじめは針葉樹のにぎやかな前奏、本編は広葉樹の静かな長編、という二部構成になります。薪ストーブの夜の音楽は、だいたいこの二楽章でできています。同じ夜でも、選ぶ薪で音色が変わるのが、薪焚きの面白さです。(樹種の話は、薪の基礎知識へ。)
音は、薪の乾き具合を教えてくれる
そして、実用の話。音は、薪の状態を教えてくれる診断音でもあります。よく乾いた薪は、パチパチと乾いた高い音で、機嫌よく燃える。乾きの足りない薪は、シューシューという蒸気の音や、ジュクジュクと泡立つような音を立てます。あれは、大量の水分が煮えている音。音が湿っていたら、その薪はまだ早い、というサインです。耳の肥えた薪ストーブ乗りは、燃やす前でも分かります。よく乾いた薪どうしを打ち合わせると、カーンと澄んだ高い音がする。湿った薪は、ゴッと鈍い音。薪割りの現場で、先代たちが代々やってきた聞き分けの技です。含水率計に頼らず、耳と手で薪の善し悪しが分かるようになると、薪ストーブ乗りとして一人前です。(乾燥の話は、三代目の薪屋の話。)
耳で焚く夜へ
音の正体を知ると、火の前の夜は、また少し豊かになります。パチパチが鳴るたび、何年も前に木が吸い上げた雨水が、いま蒸気になって昇っていくのだと思うと、焚き火の音は、木の一生の物語の朗読のようにも聞こえてきます。規則的なようで不規則な、あの「1/fゆらぎ」が心を落ち着かせるという理屈も確かにありますが、理屈を抜きにして、物語として聞く火の音も、いいものです。テレビを消して、耳だけを火に預ける夜。冬のいちばんの贅沢のひとつです。子どもに「あの音、木のなかの水が弾けてるんだよ」と教えてあげれば、火の前の時間が、ちょっとした理科の時間にもなります。音の物語を知る家族は、火をいっそう大切にします。(火と音の癒しの話は、こちら。)
いい音のする冬を
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写真: Veltsu80 (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



