薪のはぜる音の正体は、以前解きました。今日はその続編、家の外の音です。岩手の冬は、目で見るだけではもったいない。耳をすませば、雪と氷と火が、実に多彩な音を鳴らしています。外気浴の椅子は、その特等席。冬の音の図鑑、開きます。

雪は、温度で鳴き方を変える
雪を踏んだときの音は、実は温度計です。ゆるい日の雪は、ぐしゅっと湿った音。氷点下がしっかり深まると、きゅっきゅ、と鳴きはじめます。さらに冷え込んだ朝の雪は、キュンキュンと高く澄んだ音に。雪の結晶同士がこすれ合う音で、冷えるほど結晶が硬く乾くため、音程が上がるのです。長靴の下の音程で、今朝の冷え込みが分かるようになったら、あなたも立派な雪国の耳の持ち主。天気予報を聞く前に、玄関先の一歩で気温が読めるようになります。
「しんしん」の正体は、無音ではない
雪がしんしんと降る、という表現があります。あの静けさの正体は、降り積もる雪が、音を吸うから。ふわふわの新雪は、無数の隙間で音を吸収する、天然の吸音材です。大雪の夜、世界から音が消えたようなあの感覚は、気のせいではなく、れっきとした物理現象。そしてその極上の静寂の中に、かすかに、雪が枝に積もる気配だけが残る。雪の夜の外気浴は、この「音のない音」を聴く時間です。ロウリュの残り香をまとって、無音の底に座る贅沢。冬のサウナーだけの特権です。(静けさの話は、こちら。)
氷は、夜にひとりで鳴る
凍る音、というものもあります。強く冷え込んだ夜、水たまりや池の薄氷は、ピシッ、パキッと音を立てて張っていく。凍って膨らむ力が、氷を割り、その割れ目が音になるのです。岩洞湖のような凍る湖では、氷の下から、ぼーん、と低く響く音がすることも。氷が伸び縮みして、鳴いているのです。誰もいない冷えた夜に、水が静かに姿を変えていく音は、少し神秘的で、耳をそばだてたくなります。寒さがくれる、夜のひそかな演奏会です。氷が張るときの、あの澄んだ高い音は、水が固体へと姿を変える、まさにその瞬間の声。日中は人の営みの音にまぎれて聞こえませんが、しんと冷えた真夜中だけ、耳の澄んだ人に、そっと届きます。
危険を知らせる音も、ある
実用の音も覚えておきましょう。ズズ...ドサッ、という屋根雪のずり落ちる音。これは「軒下に立つな」の合図です。晴れた暖かい日の午後に多いので、サウナ小屋や薪棚の軒下の動線は、気にとめておくと安心。ピシッ、パキッと家が鳴る夜は、強い冷え込みで木材が縮む音(家鳴り)で、心配は要りません。春先の氷柱の滴りは、ぽた、ぽた、と春のメトロノーム。音の意味が分かると、冬の家は、ずっと心強い場所になります。(雪の日の安全は、こちら。)
冬は、生き物の声も遠くまで届く
冷えて澄んだ空気は、音をよく通します。だから冬は、遠くの音が、やけに近く聞こえる。何駅も先の列車の響き、隣集落の犬の声、朝いちばんの鳥のさえずり。越冬にやってきた白鳥の群れが、頭上をこう、こう、と鳴きながら渡っていく夜もあります。夏の賑やかさとは違う、澄み切った音が、点々と冬の空に置かれていく。外気浴の椅子で耳を澄ませば、その一つひとつが、はっきりと聞き分けられます。冬は、耳のごちそうの季節でもあるのです。目を閉じて、その一つひとつに名前をつけていく。そんな遊びができるのも、冬の澄んだ空気があってこそです。
締めは、火の音で
そして、外の音の図鑑を閉じて家に入れば、薪のはぜる音が待っています。外の無音と、内の火の音。この往復こそ、岩手の冬のいちばん贅沢な音楽です。岩手・盛岡のD'STYLEは、その特等席づくりをお手伝いしています。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: Periegetes (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



