岩手で暮らしていると、時々、ないものを数えたくなります。都会のような遊び場、最新の店、選び放題の仕事。ないものねだりは、きりがありません。今日は、その逆の話をします。あるもの磨き。岩手にあって、都会にないものを数えて、磨く話です。これは、私たちの商売の根っこにある考え方でもあります。

岩手にあるものを、数えてみる
数えはじめると、豪華です。面積の8割近い森。北上山地と奥羽山脈の雪解け水。夏と冬の振り幅。人口密度の低さがくれる静けさと、広い空。旨い米と味噌、りんご、三大麺、海の幸。曲り家と南部鉄器と、賢治と啄木。そして、雪。都会の人がお金を払って買いに来るもの(自然、静寂、温泉、雪景色、星空)が、こちらでは暮らしの標準装備です。問題はただひとつ、標準装備すぎて、磨かずに放置しがちなことです。
森が、暖房に見えてくる
あるもの磨きは、ものの見え方が変わることから始まります。薪ストーブのある暮らしを始めた人は、道ばたの倒木や、庭木の剪定枝を見て、「もったいない」と思うようになります。ただの景色だった森が、二年後にわが家を暖める燃料に見えてくる。里山の手入れで出る間伐材、果樹園のりんごの剪定枝、河川敷に打ち上げられた流木。これまで捨てられ、焼かれるだけだった木々が、火を持つ人の目には、宝の山に変わります。岩手は、その宝が足元にあり余っている土地。使う人が現れて初めて、森の恵みは、あたたかさに姿を変えるのです。
薪ストーブとサウナは、磨き道具です
私たちが薪ストーブとサウナを「岩手にこそ」と言い続けるのは、この二つが、岩手のあるもの磨きの道具だからです。森の恵みは、薪ストーブがあって初めて、暖房費と炎の夜に磨かれる。雪と寒さは、サウナがあって初めて、世界級の外気浴に磨かれる。名水は水風呂に、静けさは外気浴の調べに、広い庭は一坪の贅沢に。素材はぜんぶ、最初から揃っているのです。道具を一つ入れるだけで、この土地の原石が、次々に宝石に変わっていく。こんなに磨きがいのある土地は、ありません。(寒さは資源の話はこちら、水の話はこちら。)
静けさと星空は、贈り物
岩手の夜のとばりが下りると、都会の人がわざわざお金を払って求めるものが、ここではただで手に入ります。虫の声さえ聞こえる静けさ、天の川まで見える星空、そして澄んで冷たい空気。サウナの外気浴に、これほどの舞台装置はありません(星空外気浴の話)。都会のサウナ施設が、照明や音響で懸命に作り出そうとしている「非日常」が、こちらでは窓の外に、毎晩ただ広がっている。当たり前すぎて気づかずにいたその贅沢に、外気浴の椅子ひとつで、はっと気づかされるのです。磨くとは、新しく足すことではなく、すでにあるものに目を向け直すことでもあります。
磨いた人から、豊かになる
同じ岩手に住んでいても、雪を「かくだけのもの」として暮らす人と、「ととのいの仕上げ」として暮らす人がいます。森を「遠くの景色」として見る人と、「二年後の薪」として見る人が。土地の豊かさは、住所では決まりません。あるものを磨く道具と目を持った人から、順に豊かになっていく。移住の方がこの土地の宝に敏感なのは、外の目で原石が見えるからでしょう。生まれ育った私たちこそ、磨き直しどきです。(移住と火の話は、こちら。)
磨き道具の店として
岩手・盛岡のD'STYLEは、この土地のあるもの磨きの道具屋です。ハースストーン、バーモントキャスティングス、ハルビアの正規代理店として、あなたの家の原石を磨くお手伝いをします。ないものねだりに疲れた日は、店に来てください。あるものの話を、たっぷりしましょう。
写真: Antti Leppänen (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



