薪ストーブの煙突工事を仕事にしていると、ときおり薪ストーブ以外のご相談をいただきます。コーヒー焙煎機の排気工事も、そのひとつです。豆を煎る機械から立ちのぼる熱と煙、そしてチャフ(豆の薄皮)を、屋外まで安全に導く。考えてみると、これは私たちが薪ストーブの煙突で日々取り組んでいることと、よく似た仕事です。
この読みものでは、当店が手がけた焙煎機の搬入と排気工事の写真を交えながら、焙煎機が何を排出し、その通り道をどう考えて設けるのかをご紹介します。
焙煎機は、小さな炎の機械です
業務用の焙煎機の多くは、横向きに回転するドラムの中で生豆を転がし、バーナーの燃焼ガスで加熱する仕組みです。米国環境保護庁(EPA)の資料によれば、焙煎機はおよそ370〜540℃のガスで豆を煎り、焙煎の時間は数分から30分ほどです。炎が豆に直接触れない間接式と、炎も燃焼ガスも豆に触れる直火式があります。
同じ資料は、焙煎機から出るものとして、粒子状の物質、揮発性の有機化合物、有機酸、燃料の燃焼による一酸化炭素や二酸化炭素を挙げています。におい成分には、アルコール類やアルデヒド類、窒素や硫黄を含む化合物も含まれます。店内に煙やにおいをためないためには、これらを確実に屋外へ運び出す道が欠かせません。
炎で熱をつくり、生じた煙を外まで運ぶ。この構造は、薪ストーブと煙突の関係と同じです。燃やすものと目的は違っても、排気に求められる役割は共通しています。

搬入から、工事は始まっています
当店が担当したこの現場では、焙煎機はアメリカから木箱に厳重に梱包された状態でトラックに載って届きました。クレーンで慎重に下ろし、店内の据付位置まで運び込み、水平を出し、排気の取り出し口の向きを合わせて設置します。重量のある機械を傷つけずに所定の場所へ運ぶ段取りは、薪ストーブを設置場所まで運び込む作業と重なる部分が多くあります。
据付の位置は、排気の経路と切り離して考えることができません。取り出し口から外壁や屋根までの距離、途中で曲げる回数、壁や天井のどこを貫通させるかによって、排気の流れやすさと、のちの掃除のしやすさが変わります。搬入の前には、通路の幅や段差、床が機械の重さに耐えられるかも確かめておきます。機械を置く場所を決めることは、煙の通り道を決めることでもあります。


チャフを分け、空気の流れをつくる
焙煎中、豆がふくらむとチャフがはがれ、排気の流れに乗って運ばれます。EPAの資料では、焙煎機から出る粒子は通常サイクロンへ送られ、取り除かれてから外へ出されるとされています。サイクロンは、空気を渦巻かせ、遠心力で固形物を分ける装置です。この現場の焙煎機でも、上部に集塵用のサイクロンが立ち上がっています。
米国の焙煎機メーカーの解説では、焙煎中はドラムの内部を外より低い圧力に保つことが重要だとされています。そうすることで、チャフや煙、灰が豆から引き離され、サイクロンへ吸い込まれるからです。焙煎の前には、空気の通り道にチャフなどがたまっていないかを確かめるよう求めています。排気の流れが滞れば、店内の空気だけでなく、焙煎そのものの仕上がりにも影響が出ます。
規模の大きな工場では、サイクロンのあとに、煙を650〜816℃ほどで燃やして処理する熱酸化装置を設ける例があると、EPAの資料は紹介しています。この温度は、多くの焙煎機の最高温度より93〜260℃高いとされます。排気の扱いは、焙煎機の本体と同じくらい、設備全体の大切な部分です。小さな店の焙煎機でも、熱い燃焼ガスとチャフと煙を外へ送り出すという基本は変わりません。
壁を抜き、煙の道をつくる
設置が済んだら、次は屋外への排気です。焙煎機から出た煙は、機械側でチャフを落としたうえでダクトに入り、屋外へ導かれます。この現場では、断熱された二重の排気筒を室内に立ち上げ、天井際で二手に分けて、それぞれ屋外へ抜きました。
ここでの考え方は、薪ストーブの煙突を壁や天井から屋外へ抜く工事とほぼ同じです。熱い排気筒と、柱や壁などの燃えやすいものとの間に必要な距離を取ること。貫通部から雨水や虫が入らないように納めること。屋外へ出た煙が、近隣の窓や通路の方へ流れない向きと高さを選ぶこと。煙突の基本的な仕組みは、「煙突の仕組みと種類」で詳しくまとめています。
においへの配慮も、出口を決める大切な要素です。悪臭防止法では、都道府県知事(市の区域では市長)が規制地域を指定し、敷地の境界線、気体の排出口、排出水のそれぞれについて規制の基準を定めています。基準の内側であっても、風向きや建物の配置によって、近くに住む方がにおいを強く感じることがあります。出口の位置は、図面だけでなく、現地で風の抜け方を確かめて決めます。

雪の季節にも、煙は抜けなければなりません
盛岡の1月は、平均気温が−1.6℃、日の最低気温の平年値が−5.2℃です(気象庁の1991〜2020年の平年値)。岩手の冬は、外壁から抜けた排気筒の先にも雪が積もります。屋根に近い高さから排気筒を抜く場合は、雪の重みで筒がたわんだり、軒先に張り出した雪庇(せっぴ)が出口をふさいだりしないよう、抜く位置と支え方を考える必要があります。屋根から滑り落ちる雪が、排気筒に当たらない位置を選ぶことも大切です。
焙煎機のダクトには、油分を含んだすすが付着します。すすやチャフがたまれば排気の流れが悪くなり、火災の原因にもなりかねません。薪ストーブの煙突と同じように、焙煎機の排気ダクトにも定期的な点検と掃除が欠かせません。当店では、煙突掃除の仕事の一環として、焙煎機の排気筒やダクトの掃除もお引き受けしています。

薪ストーブ屋が、焙煎機の仕事をお引き受けする理由
私たちの本業は、薪ストーブとサウナです。ただ、炎を使う機械の排気をどう安全に外へ導くかという技術は、対象が薪ストーブでも、ペレットストーブでも、コーヒー焙煎機でも、根本の考え方は変わりません。燃焼ガスの温度、通り道の長さと曲がり、可燃物との距離、貫通部の納まり、雪と風への備え。煙突工事で一つひとつ確かめていることが、そのまま焙煎機の排気にも当てはまります。
そのため、焙煎機の排気についてご相談をいただいたときは、現場を拝見したうえでお手伝いしています。新しく焙煎機を導入される場合はもちろん、すでにお使いの焙煎機の排気の流れが気になる場合も、まずはお話をお聞かせください。
ピザ窯や薪を使った調理の設備も、私たちの得意分野の延長にある仕事です。火を焚く場所と道具が変わっても、その火をどう安全に、心地よく暮らしや商いの中に取り入れるかを考える点は同じです。これからも、こうした現場の様子を写真とともにご紹介していきます。
関連するページ:ペレットストーブとは・ピザ窯 岩手・秋田・青森・盛岡・岩手の薪ストーブ専門店
参考:焙煎機の温度、排出物、サイクロンと熱酸化装置は、米国環境保護庁の資料(AP-42 第9.13.2節、英語)による。ドラム内の圧力とチャフの扱いは、米国の焙煎機メーカーの解説(英語)による。悪臭防止法の仕組みは環境省(日本語)による。盛岡の気温は気象庁の平年値による。


