薪ストーブとコーヒーの相性は以前書きましたが、沼の奥には、もう一つ遊びがあります。自家焙煎です。生豆(なままめ)を手網に入れて、火の熱で煎る。うまく焼けるかは腕次第、でも楽しさは初回から満点。今日は、天板の焙煎所ごっこの話です。

道具は、手網と生豆だけ
必要なものは、驚くほど少ない。焙煎用の手網(ごま煎り器でも代用可)と、コーヒーの生豆。生豆は通販や自家焙煎店で手に入り、焙煎済みの豆より安いのも嬉しいところです。薄緑色の硬い豆が、火を通すと、あの茶色い珈琲豆に変わっていく。この変身を自分の手でやるのが、焙煎遊びの醍醐味です。
一ハゼの音を、聞き逃すな
やり方の骨子はこうです。天板の上、よく熱の立つ場所で、手網を水平に、絶えず振り続ける。数分で豆が色づきはじめ、やがて、パチッ、パチパチッと豆の爆ぜる音がします。これが「一ハゼ」。豆の水分が弾ける音で、焙煎の進み具合を告げる合図です(薪のはぜる音と同じ理屈なのが、また良いのです。音の話)。浅煎り好きは一ハゼの終わりで、中深煎りなら二ハゼの入り口で網を上げる。あとは冷まして、薄皮を飛ばして、完成です。ムラ焼けも、焦げの一粒も、自家焙煎の愛嬌のうち。
茶色に変わるのは、メイラード反応
薄緑の生豆が、香ばしい茶色に変わっていく。あの色と香りの正体は、メイラード反応と呼ばれる化学変化です。豆に含まれる糖とアミノ酸が、熱を受けて結びつき、香ばしい成分と褐色を生み出す。パンの焼き色や、肉の焼き目、味噌の色つやと、実は同じ仲間の反応です。さらに焙煎が進むと、糖そのものが焦げて、甘苦いカラメルの風味が加わる。一杯のコーヒーのあの複雑な香りは、火が豆の中で起こした、小さな化学の饗宴だったのです。焙煎は、飲めるうえに、学べる遊びでもあります。
現実的な注意を、三つ
正直な注意も。一、薄皮(チャフ)が舞い散ります。天板まわりに新聞紙を敷き、終わったら掃除を。気になる家は、屋外の焚き火や カセットコンロでの焙煎も手です。二、煙と匂いが出ます。深煎りほど煙るので、換気を忘れずに。三、火力の安定した熾火の時間帯にやること。炎が暴れているときは温度が読めません。ストーブの火加減を読む練習としても、焙煎はいい教材です。(火の読み方は、炎の色の話。)
薪火で煎るのは、原点回帰
今でこそ電気の焙煎機がありますが、コーヒーはもともと、火で煎る飲み物でした。手回しの焙烙や、炭火にかけた鍋で、人々は豆を煎ってきた。薪ストーブの天板で豆を振るという遊びは、じつはコーヒーのいちばん古い姿への、静かな原点回帰でもあります。火の強さを目と耳で読み、手の加減で仕上げる。効率だけを見れば機械に任せたほうが早いけれど、火と向き合うその時間そのものが、この遊びのごちそうです。うまくいった日も、しくじった日も、薪火の焙煎には、ちゃんと物語が残ります。焙煎したての豆は香りが立ちすぎるので、一日か二日ねかせてから淹れると、味が落ち着くと言われます。煎って、休ませて、挽いて、淹れる。一杯にたどり着くまでの待つ時間さえ、火のある暮らしでは、楽しみのうちに変わります。
煎りたての一杯は、物語つき
正直に言えば、味はプロの焙煎に敵わないことも多い。でも、雪の日に自分で煎った豆を、天板の湯で淹れて、火の前で飲む一杯には、物語がついてきます。サウナ上がりの外気浴のあと、この一杯で締める休日。豆を煎る係も、火の家の楽しい役職です。岩手・盛岡のD'STYLEは、こういう遊びのはかどる薪ストーブの設置をお手伝いしています。ご相談、いつでもどうぞ。



