風呂場では、なぜか歌が出ます。ふだん人前で歌わない人でも、湯船ではつい鼻歌。あの現象には、ちゃんと理由があります。そして、サウナと火のある暮らしを始めた家からは、「最近、家族の鼻歌が増えた」という報告を、よくいただきます。今日は、歌と機嫌の、あたたかい話です。

風呂場で歌いたくなる、三つの理由
まず、響きです。タイルや硬い壁に囲まれた風呂場は、声がよく反響して、自分の歌が三割増しで上手に聞こえる、天然のエコールームです。次に、開放感。裸で、ひとりで、誰の評価もない空間は、声を出す心理的なハードルが最低まで下がります。そして、リラックス。温まって副交感神経が優位になると、喉と表情の緊張がゆるみ、声が自然に出やすくなる。三つがそろう風呂場は、歌のためにあつらえたような場所なのです。歌いたくなるのは、体がしっかりゆるんだ証拠。つまり鼻歌は、機嫌と回復の、いちばん正直な体温計です。
鼻歌が出たら、回復のサイン
歌うという行為には、体をほどく働きもあります。歌やハミングは、息をゆっくり長く吐く動作の連続。長い呼気は、心身を落ち着かせる方向に働くと言われます。緊張して呼吸が浅いときに、鼻歌は出ません。逆に、ふうっと息が伸びて、思わずメロディーがこぼれるときは、体が安全モードに入った合図です。だから、鼻歌が長らく出ていない自分に気づいたら、それは静かな疲れの警報でもあります。機嫌は、気合いで作るものではなく、回復の結果として、後から湧いてくるもの。歌わせたいなら、まず休ませる。(休み方の練習は、こちら。)
サウナ上がりは、鼻歌の時間帯
サウナのあとも、同じことが起きます。ととのって、湯上がりの格好で、台所へ向かう廊下。ふふーん、と勝手に何かが漏れている。あれが出たら、そのサウナは大成功です。熱と水風呂と外気浴で交感神経の祭りを一度上げ切ってから、すとんと副交感神経へ落ちる。その落ちた先に、鼻歌はいます。サウナは、意志では届きにくい深いリラックスへ、体を連れて行く装置。だから、上がったあとの家じゅうに、小さな歌が増えるのです。
薪割りには、労働歌が似合う
屋外にも、歌の出る現場があります。薪割りです。単調なリズムの肉体労働は、昔から歌の生まれる場所でした。田植え歌、木挽き歌、南部牛追い歌。世界の民謡の多くが、もとは仕事の手拍子から生まれています。振り上げて、下ろす。スパン、スパンという薪割りのリズムに、好きな歌の一節が自然に乗る。誰も聞いていない庭の労働歌は、なかなか気持ちのいいものです。体を動かしながら歌うと、作業がはかどり、気分まで上向く。昔の人は、それを知っていました。(薪割りの無心の話は、こちら。)
子どもは、上機嫌の中で育つ
家に歌が漏れている状態には、もうひとつ効能があります。子どもは、親の機嫌をよく見ています。台所から母の鼻歌、風呂場から父の下手な演歌が聞こえる家は、それだけで、子どもにとって安心な場所です。親の上機嫌は、いちばん静かで確かな教育であり、家族への何よりのおすそ分けです。回復の装置が家にあると、大人の機嫌がよくなり、その温度が、子どもにそのまま伝わっていきます。
歌のある家は、うまくいっている
台所から母の鼻歌、風呂場から父の演歌、子ども部屋から流行りの歌。家に歌が漏れている状態は、家族それぞれの機嫌の体温計が、そろって良好を指しているということです。火と蒸気の家に歌が増えるのは、偶然ではありません。回復の装置が家にあると、機嫌の総量が増えるのです。岩手・盛岡のD'STYLEは、鼻歌の増える家づくりをお手伝いしています。ご相談、いつでもどうぞ。ふふーん。
写真: Asturio Cantabrio (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



