サウナ上がりのかき氷を勢いよくかき込んで、こめかみにキーン。あの痛みには「アイスクリーム頭痛」という名前のほかに、蝶口蓋神経節神経痛(ちょうこうがいしんけいせつしんけいつう)という物々しい正式名まであります。ところで、不思議に思いませんか。頭まで冷水に浸かる水風呂では、なぜキーンとならないのか。今日は、冷たさの科学の小話です。

キーンの正体は、神経の勘違い
アイスクリーム頭痛の仕組みは、おおむねこう説明されています。冷たいものが口の中や喉を急に冷やすと、その刺激が顔の感覚を担う三叉神経を通じて脳へ伝わる際に、「顔や頭が痛い」という信号に取り違えられる。これを関連痛と呼びます。さらに、急に冷えた口の中の血管が、反動でぱっと広がる変化も、痛みに関わるとされます。要は、急すぎる冷たさに、神経が勘違いを起こしている状態。痛むのが食べた口ではなく、こめかみや額なのが、その勘違いの何よりの証拠です。
数十秒で消える、無害な痛み
幸い、この頭痛は数十秒から長くても数分でおさまり、体に害を残しません。早く鎮めたいときは、舌を上あご(冷えた場所)に押し当てて温める、常温の飲み物を含む、といった方法が知られています。冷えた場所をすばやく温め直せば、勘違いした神経も落ち着く、という理屈です。あの数十秒は、なかなかの試練ですが、体が「急な変化に驚いただけ」と分かっていれば、慌てずやり過ごせます。冷たいものは、少しずつが快適というわけです。
水風呂で、キーンとならない理由
では水風呂です。あちらのほうがずっと冷たいのに、キーンと来ないのは、冷える場所と速さが違うから。キーンの引き金は、口の中と喉、特に上あごの急冷です。水風呂は皮膚の表面から徐々に冷えていく上、口の中は冷えません。だからサウナーは平気で「羽衣」を楽しめるわけです。逆に言えば、水風呂上がりにキンキンの水を一気飲みすれば、ちゃんとキーンは来ます。冷たさそのものではなく、口内の急冷こそが犯人なのです。(水風呂の入り方は、かけ水の話。)
サ甘味を、キーンなしで楽しむ速度
実用編です。サウナ上がりのアイスやかき氷(サ甘味の話)をキーンなしで楽しむコツは、速度。最初のひと口を小さく、口の中で少し温めてから飲み込む。上あごに冷たい塊を直撃させない。ととのった五感で味わうサ甘味こそ、急いで食べるのがもったいない食べ方です。冷たさと甘さが、冴えた舌の上でゆっくりほどけていく時間を、丸ごと味わってください。
温度差そのものが、ごちそうになる
サウナ上がりの冷たいものが、格別においしいのはなぜでしょう。一つには、火照った体と冷たい一口の落差が、快さを何倍にも増幅するからです。人の感覚は、絶対的な冷たさよりも、直前との差に強く反応します。熱いサウナ室から出た体には、同じアイスも、同じ水も、普段の何倍も甘く冷たく感じられる。温冷交代で研ぎ澄まされた五感が、味わいの解像度を上げてくれるのです。熱い蕎麦のあとの冷たい水、熱燗のあとの冷奴。日本の食卓は昔から、この温度差の妙を心得ていました。サウナと冷たいひと口は、その最も気持ちのいい実践版です。冷たさを悪者にせず、差を楽しむこと。それが、温冷を巡る遊びのいちばんおいしいところです。
冷たさと、上手に遊ぶ
熱と冷たさの科学を知るほど、サウナの遊びは安全で深くなります。岩手・盛岡のD'STYLEは、そんな小話つきでサウナの暮らしをお渡ししています。キーンの豆知識、サウナ会の小噺にどうぞ。ご相談、いつでもお待ちしています。
写真: WarCatOne (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



