フィンランドのサウナ文化には、心のふるさとと呼べる土地があります。カレリア。フィンランド東部からロシア側にまたがる、森と湖に埋めつくされた地方です。素朴なスモークサウナも、国民的叙事詩カレワラも、この土地から生まれました。今日は、サウナの原風景をたずねて、カレリアの話をします。

森と湖しかない、豊かさ
カレリアは、フィンランドの中でもとりわけ自然が濃い土地です。見わたすかぎりの針葉樹の森、無数の湖、点在する木造の家。都会の華やかさとは無縁ですが、そのぶん、人と自然の距離がとても近い。サウナで温まって湖へ飛び込み、森でベリーを摘み、冬は雪と静けさの中で暮らす。フィンランドの人が「これぞ本当のフィンランド」と感じる原風景が、ここにあります。サ旅(こちら)でこの地方を訪れる人は、観光地ではなく、暮らしそのものに触れることになります。
スモークサウナの、ふるさと
煙突を持たず、薪の煙で室内を燻して温める、いちばん古い形のサウナ、スモークサウナ(こちら)。この原初のサウナが色濃く残ってきたのが、カレリア地方です。壁は長い年月の煙で黒く艶を帯び、火を落としたあとの部屋には、木と煙のまろやかな香りが満ちる。電気サウナが普及した現代でも、カレリアではスモークサウナを大切に守る人が多く、「サウナはこうでなくては」という声を今も聞きます。タールの香り(こちら)が、記憶の奥まで届く土地です。
歌と物語が、生まれた土地
カレリアは、言葉の文化のふるさとでもあります。19世紀、医師のエリアス・リョンロートが、この地方の村々を歩いて古い歌や口伝えの物語を集め、一冊の叙事詩にまとめました。それが、フィンランドの国民的叙事詩カレワラ(1835年)です。森と湖の神話、英雄たちの冒険、呪文のような歌。この物語は、フィンランドが自国の文化に誇りを持ち、独立へと向かう心の支えになりました。サウナも、歌も、物語も、同じ森と湖の暮らしから生まれた兄弟のようなものです。人は自然のそばで、体を清め、歌をうたい、物語を語り継いできました。
素朴さこそ、サウナの本質
カレリアが教えてくれるのは、サウナの本質が豪華な設備ではなく、素朴さの中にあるということです。木の小屋、薪の火、熱い石、湖の水、そして静けさ(こちら)。必要なものは、驚くほど少ない。派手さのない、けれど満ち足りた時間。現代のサウナがどれだけ進化しても、その心はカレリアの森の小屋にあり続けます。飾らない一台こそ、いちばん深く整えてくれる。それがサウナの故郷からの、静かな教えです。
歌の楽器、カンテレ
カレリアには、カンテレという弦楽器があります。木の共鳴箱に弦を張った素朴な琴で、叙事詩カレワラの中では、英雄ワイナミョイネンがこの楽器を奏でて森じゅうの生きものを聞き惚れさせます。指ではじくと、水滴が落ちるような澄んだ音が響く。厳しい冬の夜、火のそばでカンテレを奏で、古い歌を語り継ぐ。娯楽の少ない森の暮らしで、音楽と物語は心の灯りでした。サウナで体を清め、火のそばで歌をうたう。カレリアの人々にとって、体を整えることと心を潤すことは、同じひとつの暮らしの中にありました。素朴な道具ひとつで、こんなにも豊かな時間を作れる。飾らない暮らしの底力を、この土地は教えてくれます。
原風景を、わが家に
豪華でなくていい。木と火と蒸気と、少しの静けさ。その素朴な原風景を、岩手の家にも作れます。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハルビアのサウナヒーターで、飾らない確かな熱をご提案しています。カレリアの森を思いながら、わが家のサウナの話を、店でどうぞ。
写真: Arto J (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



