お客様語録(こちら)で少し触れましたが、サウナ小屋に名前をつけたご家族の話の続きです。聞けば、命名した家は一軒ではありません。船に名をつけ、刀に銘を刻んできた私たちの国では、それはごく自然な感覚なのでしょう。今日は、道具に名前をつけるという、小さくて効く魔法の話です。

名前は、モノを家族に変える
人は、名前をつけたものを、粗末にできなくなります。名もない金魚と、名前のある金魚。同じ魚でも、扱いがまるで変わる。心理学では、対象に名前を与えて人格のように接することを擬人化と呼び、これが愛着形成のいちばん強い儀式のひとつだとされています。名前をつけた植物やぬいぐるみを、子どもが決して手放せなくなるのも同じ理屈。車を「うちのシルバーちゃん」と呼ぶ人が洗車をさぼらないように、名前のあるサウナ小屋は、手入れされ、労られ、長生きします。命名は、道具をモノの棚から、家族の戸籍へ移す手続きなのです。
船にも、刀にも、名前があった
考えてみれば、私たちは大切なものに、昔から名前を贈ってきました。船には進水式で名が与えられ、名匠の刀には銘が刻まれ、由緒ある家や部屋には号がつく。名前は、そのものへの敬意と、これから共に時を過ごすという約束の、しるしです。海の民が船の無事を祈って名を呼んだように、名前には、守ってやりたい、末永くいてほしいという願いがこもります。楽器に愛称をつける音楽家、道具に名を与える職人。手をかけて長く使うものほど、人は名前を欲しがる。小さなサウナ小屋に名前を与えるのも、この長い習わしの、かわいらしい末裔なのです。
フィンランドの小屋には、名前がある
本場にも、この文化は生きています。フィンランドの湖畔の別荘(モッキ)には、しばしば固有の名前がつき、小屋の壁に木彫りの名前板が掛かっています。「白樺荘」「湖の風」といった趣の名から、家族の思い出の言葉まで。夏至祭に集う家族が「今年もあの小屋へ行こう」と小屋の名で呼び合う。名前は、場所を物語の登場人物に変えます。持ち主が代替わりしても名前は残り、祖父母が名づけた小屋に孫が通う。小屋そのものが、家族史の背表紙になっていくのです。
日本には、庵号の風流があった
名づけの風流は、日本にも古くからあります。茶人は小さな茶室に庵号を贈りました。雨音を聴く「聴雨庵」、禅の問答から採った「不識庵」。数寄屋のひと間に、詩のような名前を与える。書斎や庭の東屋に名をつける文人の遊びも、同じ系譜です。宿の部屋に「松の間」「月見の間」と名がつくのも、その延長でしょう。小さな空間に名前を贈るのは、洋の東西を問わない、暮らしを愛おしむ心の表れ。あなたのサウナ小屋の名も、その長い列に、そっと加わります。
名づけ方の、ゆるい流儀
命名にルールはありませんが、先例の傾向を少しだけ。景色から取る派(「星見湯」「山見サウナ」)。家族の言葉から取る派(子どもが最初に言った「あちちハウス」が、そのまま定着した家もあります)。フィンランド語派(「ロウリュ荘」「トントゥの家」)。地名や屋号から取る派。おすすめは、家族会議で決めて、木の板に焼きペンで書いて、小屋に掛けること。表札が掛かった瞬間、小屋の顔が変わります。命名記念日は、サウナ記念日(こちら)と並ぶ、わが家の祝日になります。
名前板の掛かる日を、楽しみに
岩手・盛岡のD'STYLEは、いつか名前の付く小屋たちを、今日も設置しています。KUUTAという名前も、いわば私たちの子の名です(こちら)。あなたの家の小屋の名前、決まったらぜひ教えてください。店の語録帳に、大切に記録します。名づけの日は、きっと忘れられない一日になります。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: z tanuki (Wikimedia Commons, CC BY 3.0)



