盛岡の土曜の夕方には、名物があります。材木町の「よ市」。四月から十一月、毎週土曜に開かれる路上の市です。宮沢賢治ゆかりの光原社のある通りに、野菜、果物、惣菜、酒、花の露店がずらりと並び、街が市場になる。今日は、このよ市とサウナをつなげた、盛岡サウナーの黄金の土曜日の話です。
よ市は、盛岡の台所であり社交場
よ市の楽しさは、買い物というより、そぞろ歩きです。旬の野菜が驚く値段で並び、山菜ときのこが季節を告げ、屋台の匂いが誘い、地ビールのベアレンを立ち飲みする人垣ができる。知り合いに必ず一人は会う、と言われる盛岡の社交場でもあります。歩くだけで、今の岩手の旬が分かる。この市を台所にしている家は、食卓の季節感が一段違います。
光原社と、宮沢賢治の通り
よ市の会場である材木町は、宮沢賢治とゆかりの深い通りです。通りに面した光原社は、賢治が生前に唯一出した本『注文の多い料理店』を、大正十三年に世に送り出した会社でした。今は工芸品と喫茶の落ち着いた店として、静かな中庭とともに人を迎えています。通りには賢治の像やモニュメントが点在し、賑わうよ市の喧騒の中に、詩人の面影がそっと同居している。買い物のついでに、賢治の歩いた道を少したどってみる。それも、この市ならではの散歩です。
黄金の土曜日の、設計図
ここに、サウナを組み合わせます。設計図はこうです。夕方、よ市へ。今夜のサ飯の材料を、旬まかせで仕入れる。新じゃが、とうもろこし、山菜、地場の豆腐、出来たての焼き鳥。家に戻って、仕込みを済ませたら、サウナへ(腹五分の理屈はこちら)。ととのった舌で、よ市の戦利品の夕食。旬の野菜の味の濃さが、冴えた舌にまっすぐ届きます(自炊サ飯の話)。市場で買って、汗を流して、旬を食べる。これ以上の土曜日の使い方を、私たちは知りません。
露店に並ぶ、岩手の四季
よ市の棚は、そのまま岩手の季節の暦です。四月末の開幕には、ふきのとうやこごみ、山ウドの山菜。初夏はアスパラやさやいんげん、夏の盛りはとうもろこしと枝豆、真っ赤なトマト。秋が深まれば、きのこに新米、枝もたわわの岩手のりんごや洋なし。何を買うか決めずに出かけて、その日いちばん元気な野菜を選ぶ。旬まかせの買い物は、献立を野菜に決めてもらう贅沢です。サ飯の主役が毎週入れ替わるので、土曜の食卓が飽きることがありません。作り手の顔が見えるのも、よ市の良さです。この大根はどこそこの畑、このきのこは今朝採ったばかり、と売り手が教えてくれる。おすすめの食べ方をひとつ聞いて帰れば、その晩の献立まで決まります。棚に黙って並ぶ品では味わえない、人と言葉を交わす買い物です。旬のものを、作った人から直に受け取り、汗を流して、その日のうちに食べる。土地の恵みと人のつながりが、まるごと一皿にのる。よ市の土曜は、そういう豊かさに満ちています。
市場のある街の、幸福
考えてみれば、市場で夕食を仕入れてサウナで締める暮らしは、ヘルシンキの市場広場とサウナの関係と同じです。フィンランド人がマーケットで魚とベリーを買い、湖畔のサウナで週末を締めるように、盛岡人はよ市で山菜とビールを買い、家の蒸気で締める。いい街には、いい市場といい風呂がある。盛岡は、その条件を満たしている街です。冬によ市が休みの間は、産直と朝市が代打を務めてくれます。
土曜の夕方、すれ違ったら
岩手・盛岡のD'STYLEの面々も、よ市にはよく出没しています。ベアレン片手の当店スタッフを見かけたら、ぜひお声がけを。サウナと薪の立ち話、その場でやりましょう。黄金の土曜日の装置一式のご相談は、店でゆっくり。いつでもどうぞ。
写真: 不明 (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



