サウナにハマると、ある日、本が読みたくなります。この気持ちよさの正体は何なのか。本場の人たちはどう入っているのか。あの熱い部屋の奥に、どんな歴史があるのか。今日は、サウナの本棚のつくり方。特定の書名を並べるより、どんなジャンルから攻めると楽しいか、という読書案内です。

入口は、漫画とエッセイから
最初の一冊は、気楽なものが一番です。タナカカツキ氏の漫画『サ道』は、やはり別格の入門書。ととのいの感覚が、絵と擬音で体感的に分かります。テレビドラマにもなり、「ととのう」という言葉を世に広めた一冊でもあります。サウナ愛好家たちのエッセイや体験記も、入口として上等です。先人の失敗と発見を笑いながら読むうち、自分の入り方が自然と整っていく。難しい本から入る必要は、まったくありません。(ブームの話は、こちら。)
二冊目は、入り方と体の本
次に手が伸びるのは、実用書です。医師の加藤容崇氏の『医者が教えるサウナの教科書』のように、研究者が書いた「サウナと健康」の本は、ととのいの生理学、安全な入り方、効果の科学を、きちんとした根拠と共に教えてくれます。感覚で楽しんでいたことに理屈の裏づけがつくと、サウナはもう一段面白くなる。この読み物でも健康の話は多く書いてきましたが(効果の話など)、書籍一冊の体系性には、また別の価値があります。大げさな効能をうたう本より、正直に限界も書いてある本を選ぶのがコツです。効果を大きく語りすぎない本ほど、書き手が誠実な証拠です。数字が出てくるなら、その出どころが示されているかも、あわせて見てみてください。
沼の底には、文化と歴史の本
そして、沼の深部には、フィンランド文化論と歴史の本が待っています。フィンランド在住の研究者こばやしあやな氏の『公衆サウナの国フィンランド』は、本場の暮らしの中のサウナを、現地の目線で描いた良書です。世界の蒸気浴の歴史、日本の風呂文化史まで来ると、サウナは趣味を超えて教養になります。そこまで来れば、旅先でどの国のサウナに入っても、その一軒の歴史や作法が読み解けるようになります。北欧のデザインや幸福論の本も、サウナの周辺として面白い。読み終える頃には、あなたの語るサウナの話は、そのへんのガイドより深くなっています。(幸福の国の話は、こちら。)
眺める一冊も、棚にひとつ
写真で味わうサウナ本も、また格別です。サウナ小屋や湖畔を写した写真集は、開くだけで旅ができる一冊です。北欧の建築やインテリアの本、フィンランドの森と湖の風景集も、火と蒸気の暮らしの気分を静かに底上げしてくれます。眠る前、火のそばでページをめくるだけの本。理屈を追わず、ただ美しい熱の風景に浸る夜も、サウナ読書の立派な一形態です。積ん読が増えても、火のそばに積まれた本は、それはそれで絵になります。背表紙が並ぶだけで、その部屋には物語の気配が漂います。
読む場所は、もちろん
サウナの本のいちばんの読書席は、言うまでもなく、火のそばと外気浴の椅子です。本で読んだことを、三十分後に自分の体で実験できる。こんな贅沢な読書環境は、ほかの趣味にはありません。汗をかいたあとの一冊は、内容が体に染み込む感じさえします。熱で少しのぼせた頭には、難しい理論書より、写真集やエッセイのほうがよく馴染みます。(火のそばの読書は、こちら。)
続きは、店でお話しします
岩手・盛岡のD'STYLEの店には、サウナと薪ストーブの本が何冊か置いてあります。ご相談の待ち時間に、どうぞ。おすすめの一冊の話から、おすすめの一台の話まで、地続きでお付き合いします。
写真: Kotivalo (Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0)



