薪ストーブの料理の話をすると、シチューだのピザだのと、ごちそうの話になりがちです。でも、薪ストーブ乗りたちが冬に何百回と作り、いちばん愛しているのは、もっと素朴なものです。焼き芋。熾火の中でじっくり火の通った芋の、あのねっとりした甘さは、オーブンにもレンジにも、なかなか出せません。今日は、わが家の黄金レシピの話です。

なぜ熾火の芋は、甘いのか
さつまいもの甘さは、でんぷんが糖に変わることで生まれます。この変化を担うのが、芋自身が持つアミラーゼという酵素。アミラーゼはおよそ七十度前後でいちばんよく働き、でんぷんを麦芽糖、つまりマルトースに変えていきます。強火で一気に焼くと、この温度帯をすぐ通り過ぎてしまう。穏やかな熱でゆっくり加熱するほど、酵素が長く働いて、芋は甘くなるのです。炎が落ち着いたあとの薪ストーブの熾火は、遠赤外線で芯までじんわり火を通す、まさにこの「穏やかで長い熱」の名人。石焼き芋が甘いのと、同じ理屈です。焦らずに、七十度あたりの熱を長くくぐらせる。この一手間が、家の焼き芋を、屋台に負けない甘さへ育てます。
品種で変わる、焼き上がりの顔
芋は品種で、まるで別の顔になります。ねっとり系の王様は紅はるか。蜜のような甘さで、冷やすとさらに濃くなります。シルクスイートはなめらかで上品、安納芋はクリームのよう。ほくほく系がお好みなら、昔ながらの紅あずまや鳴門金時を。ちなみに、さつまいもを飢饉に備える救荒作物として江戸に広めたのは、蘭学者の青木昆陽。人々に「甘藷先生」と慕われた人です。その芋が、いまや冬のいちばんのおやつ。同じ紅はるかでも、掘りたてより、二、三か月ねかせた芋のほうが、水分が抜けて甘みが増します。芋には、寝かせて待つ時間も、味のうちなのです。品種を食べ比べる楽しみも、ぜひ。
包み方と、置きどころ
作り方は簡単です。芋をよく洗い、濡らした新聞紙かキッチンペーパーで一巻き、その上からアルミホイルで二重に包む。この「濡れ紙の一枚」が蒸し焼き効果を生んで、しっとり仕上げてくれます。置き場所は、燃え盛る炎の中ではなく、炎が落ち着いた熾火のそば。灰を少しかぶせるくらいの位置で、途中で一度ひっくり返しながら、四十分から一時間ほど。竹串がすっと通れば、できあがりです。焦らないこと。芋は、待った分だけ甘くなります。(熾火の育て方は、火の起こし方の話に。)
子どもが、火に集まる日
焼き芋の日は、家の中の空気が少し変わります。子どもたちが、そわそわとストーブの前に集まってくる。「まだ?」「もうちょっと」というやりとりを三回くらい繰り返して、ホイルを開ける瞬間の、あの湯気と歓声。おやつが「出てくるもの」ではなく「火と時間が作るもの」だと知ることは、ちょっとした食育であり、火育でもあります。(子どもと火の話は、こちら。)
サウナ上がりの、冷やし焼き芋
ひとつ、通の楽しみ方を。焼き芋を多めに作って、冷蔵庫で冷やしておく。サウナ上がりの火照った体に、冷たいねっとり焼き芋。これが、驚くほど合います。水分と糖分の補給になり、腹持ちもいい。冷やすと甘みが際立つ紅はるかなら、なおさらです。岩手の冬の、サ甘味の隠れた王様。ひんやりとした甘みが、火照ったのどにするりと落ちていきます。(サウナと甘いものの話は、こちら。)
おやつ付きの暖房を
暖房で、おやつが作れる。考えてみれば、薪ストーブとは不思議な道具です。岩手・盛岡のD'STYLEは、ハースストーンやバーモントキャスティングスの薪ストーブの設置をお手伝いしています。焼き芋に向くおすすめの機種、店先でこっそり教えます。この冬は、家で焼き芋屋さんを開業しませんか。




