青森ヒバ(こちら)に続く、北の銘木シリーズ。今日は秋田杉と、その最高の応用作品、大館曲げわっぱの話です。木の器が、なぜ飯をうまくするのか。理屈のある、いい話です。

秋田杉は、雪が育てた美林
秋田杉は、木曽ヒノキ、青森ヒバと並ぶ日本三大美林のひとつ。米代川流域の雪深い山で、ゆっくりまっすぐ育った杉は、年輪が細かく均一で、狂いが少なく、淡い紅色の木肌と、すっと鼻に抜ける芳香で、建材から樽・桶まで愛されてきました。とりわけ樹齢二百年を越える天然秋田杉は、木目が詰まって美しく、社寺や名建築の内装にも使われた別格の材です。豪雪が木の成長を遅くし、その遅さがそのまま材の緻密さになる。寒さと時間が品質を作る構図は、津軽のりんご(こちら)や寒仕込みの酒(こちら)と同じ、北国の方程式です。
曲げわっぱの科学 / 杉は呼吸する
大館曲げわっぱは、秋田杉の薄板を熱湯で柔らかくして曲げ、山桜の皮で綴じた器です。国の伝統的工芸品であり、そして「曲げわっぱの弁当はうまい」という定評には、ちゃんと理屈があります。杉の木肌が、呼吸するからです。炊きたてのごはんの余分な水分を杉が吸い、乾いてくれば返す。この調湿のおかげで、時間がたった飯が、べちゃつかず、固くならず、ふっくらほどよい状態に保たれる。さらに杉のほのかな香りと、木のもつ殺菌性が加わる。プラスチックの弁当箱との差は、昼に蓋を開けた瞬間、立ちのぼる湯気と木の香りとともに分かります。ごはんの器としての木の、最高到達点です(火で炊く飯の話はこちら)。
下級武士の内職から、日本一の里へ
大館の曲げわっぱには、暮らしの歴史があります。江戸時代、大館を治めた佐竹西家が、豊かな秋田杉に目をつけ、内職として下級武士に曲げわっぱ作りを奨励した。これが産地の礎になったと伝わります。苦しい藩の台所を、山の恵みと手仕事で支えようとした工夫が、三百年を越えて日本一の曲げわっぱの里を育てたわけです。薄く削いだ杉を、湯につけて柔らかくし、木のこてでゆっくり曲げ、山桜の皮という自然の糸で縫い留める。金物にほとんど頼らず、木と皮だけで美しい円をつくる潔さも、この器の芯にある魅力です。ひとつずつ、職人の手の勘で仕上げられていきます。
白木か、塗りか
曲げわっぱには、いくつかの顔があります。木肌のままの白木、内側に漆を塗ったもの、扱いやすいウレタン仕上げのもの。呼吸と調湿の恩恵を存分に受けたいなら、無塗装の白木が主役です。手入れは少し手がかかりますが、そのぶん飯の味に素直に応えてくれる。毎日の弁当なら白木、汁物も入れる普段使いなら漆仕上げ、と用途で選ぶのが賢いところ。はじめの一つに迷ったら、飯の甘みをいちばん引き出す白木から始めるのがおすすめです。どれを選ぶにせよ、共通するのは「使うほどに馴染む」という一点です。
わっぱは、育てる器の仲間
無塗装の白木のわっぱは、使って、洗って、しっかり乾かす。この付き合い方は、サウナの木やまな板と同じです(乾燥が命、という点も同じ。こちら)。使い始めは白かった木肌が、ごはんの油と手の脂を吸って、使い込むほどに落ち着いた飴色へ育っていく。手入れ次第で何年も、時に親から子へ世代を越えて働きます。浄法寺塗の椀(こちら)と曲げわっぱと南部鉄器で、北東北の育てる食卓が完成します。
木の器と火の飯の、幸せな関係
薪ストーブで炊いた飯を、曲げわっぱに詰めて、雪見の外気浴のあとに頬張る。木と火と米の国の、ささやかな完成形です。岩手・盛岡のD'STYLEは、その暮らしの火の側を担当しています。ご相談、いつでもどうぞ。
写真: そらみみ (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)



