エアコンの暖房で冬を過ごしていて、どこかに不満がある。足元が冷たい。電気代が高い。風が止まる朝がある。停電で何もできなくなった経験がある。そういう人に向けて、エアコンと薪ストーブの違いを全部並べてみる。どちらが良い悪いという話ではなく、何がどう違うのかを数字と仕組みで見ていく。
エアコンで足元が寒い理由
リビングのエアコンを24℃に設定した。温度計も24℃を指している。なのに足元が冷たい。靴下を二枚重ねにしても、フローリングの冷たさが伝わってくる。
エアコンの温度センサーは壁の高さにある。あの数字は「壁の高さの空気の温度」であって、足元の温度とは違う。
壁の高さ(温度センサー):24℃
テーブルの高さ:22〜23℃
床上10cm:19〜21℃
天井と床の差:5〜9℃
暖かい空気は軽いから上に行く。冷たい空気は重いから下に沈む。これは物理法則で、エアコンがどれだけ高性能でも変わらない。サーキュレーターで空気をかき混ぜれば多少は均一になるが、「暖かい空気は上に行く」性質は消せない。風も増える。
薪ストーブが足元まで暖かい理由
薪ストーブの暖かさは空気を介さない。本体が300℃から400℃に熱せられ、そこから赤外線を放つ。この赤外線が床にも壁にも人の足にも直接届く。空気を素通りして物にあたったところで熱に変わるから、天井にたまることがない。
さらに、薪ストーブで暖められた床は蓄熱する。ストーブを消したあとも、しばらくは床が暖かい。この「床から来る暖かさ」がエアコンにはない。吹き抜けのある家では差がもっと出る。エアコンの暖かい空気は吹き抜けの上部に逃げていくが、薪ストーブの輻射熱は吹き抜けに影響されない。1階のリビングの床と壁にそのまま届く。
暖め方の違い。対流と輻射
熱の届け方は3つある。伝導、対流、輻射。エアコンは対流で暖める。薪ストーブは輻射で暖める。この違いが「暖かさの質」を分ける。
| エアコン(対流) | 薪ストーブ(輻射) | |
|---|---|---|
| 暖め方 | 空気を暖めて風で送る | 赤外線を放って物を直接暖める |
| 風 | 必ず発生する | 風なし |
| 足元 | 天井との温度差5〜9℃ | 輻射が床に直接届く |
| 乾燥 | 空気循環で急激に乾燥 | 穏やか(加湿は要る) |
| 体感温度 | 室温24℃でも寒く感じる | 室温20℃でも暖かく感じる |
エアコンの風が苦手だという人は少なくない。顔に温風があたる。髪が乾く。のどがイガイガする。目がかすむ。温度は上がっているのに、快適ではない。温風に直接さらされ続けることへの不快感は、温度の高さでは解決できない。暖め方そのものの問題だ。
薪ストーブは風が要らない。鋳鉄や鋼板が放つ赤外線は、皮膚の数ミリ下まで到達する。「体の芯まで暖まる」感覚は、この皮膚を透過する暖かさから来ている。エアコンの温風は皮膚の表面だけを暖めるので、風が止まればすぐ冷える。
エアコンの電気代が月3万円を超える冬
岩手の20畳のLDKで、12月から3月まで1日14時間エアコンを回した場合、電気代は月に2万5千円から3万5千円あたりになる。
低温時消費電力:3,000〜4,000W(外気温2℃)
岩手の冬(−5〜−10℃)での電気代 1日14時間 × 30日 × 31円/kWh = 約20,000〜35,000円/月
4ヶ月(12〜3月)で 80,000〜140,000円
寒冷地ではエアコンの効率(COP)が下がり、同じ暖かさを得るために電力を多く使う。カタログの「年間電気代の目安」は外気温7℃で計算されたもので、岩手の冬には当てはまらない。
薪ストーブの燃料費と並べてみる
| 薪の入手方法 | ひと冬(5ヶ月) |
|---|---|
| ホームセンターで1束ずつ購入 | 150,000〜210,000円 |
| 薪屋からまとめ買い | 80,000〜120,000円 |
| 原木を自分で割る | 20,000〜40,000円 |
| もらえる環境がある | チェーンソーの燃料代のみ |
幅が大きい。ホームセンターで1束ずつ買えば高くなるし、原木を自分で割れる環境があれば大幅に安くなる。岩手は果樹園や林業が身近にあるので、原木を入手できる人は多い。薪屋からまとめ買いする場合はエアコンと同程度。自分で薪を用意できるなら、桁が違ってくる。
| エアコン(20畳用) | 薪ストーブ(薪屋) | 薪ストーブ(自分で割る) | |
|---|---|---|---|
| ひと冬の燃料費 | 80,000〜140,000円 | 80,000〜120,000円 | 20,000〜40,000円 |
| 出力(−10℃) | 3.1 kW(定格の43%) | 6〜15 kW(気温に無関係) | 同左 |
| 停電時 | 使えない | 使える(電気不要) | 同左 |
| 手間 | リモコン操作のみ | 薪の搬入・着火・灰処理 | +薪割り・乾燥1〜2年 |
| 初期費用 | 15〜30万円 | 80〜200万円 | 同左 |
暖かさの質は違う。エアコンは外気温が下がるほど出力が落ちる。薪ストーブは薪を入れれば入れただけ暖まる。マイナス10℃の朝にエアコンが3.1kWしか出せないとき、薪ストーブは10kWでも15kWでも出せる。
霜取り運転。エアコンの風が止まる朝
1月の朝6時、部屋が急に冷えてきて目が覚める。エアコンのランプは点いているのに、風が出ていない。リモコンを確認しても異常なし。10分ほどすると、また風が出始める。故障ではない。「霜取り運転」だ。
霜取りの仕組み
エアコンの暖房は外の空気から熱を汲み上げて室内に運ぶ。外気温が0℃を下回ると、室外機の熱交換器に霜がつく。霜が厚くなると空気が通らなくなる。エアコンは暖房を止め、冷媒の流れを逆にして室外機を温め、霜を溶かす。これが霜取り運転だ。
−10℃:およそ1時間に1回
−15℃:さらに頻繁(暖房時間の2割が霜取りに取られることも)
1回の停止時間:10〜15分
停止中の室温低下:2〜3℃
マイナス10℃で1時間に1回、暖房が10分止まる。夜中に3回は止まる計算で、寝ていても気づく人は少なくない。暖房力が落ちている上に、その暖房すら10分おきに止まる。盛岡の1月の朝は、エアコンにとって最も厳しい時間帯だ。
寒冷地エアコンでも霜は付く
寒冷地仕様のエアコンは、霜取りの時間を短くしたり、室外機のヒーターで霜を予防する設計が入っている。「ノンストップ暖房」と呼ばれる機能で、霜取り中でも暖房を止めない機種もある。それでも、外の空気から熱を汲む仕組みである限り、霜は物理的に避けられない。停止時間が5分に縮んでも、マイナス10℃で1時間に1回は止まる。
薪ストーブは止まらない
薪ストーブは外の空気から熱を汲み上げる必要がない。薪を燃やし、その熱を鋳鉄や鋼板が吸い取り、輻射熱として部屋へ放つ。外がマイナス20℃でも、炉の中で薪が燃えている限り、暖房の力は変わらない。霜取りがない。途切れない。
鋳鉄製のストーブは100kgから300kgの重さがあり、その重い鉄が熱をため込む。寝る前に薪を入れておけば、明け方まで輻射熱が続く。朝6時に部屋が急に冷えることがない。
停電した夜のこと
2021年2月、岩手県内で大規模な停電が起きた。真冬の夜に暖房が止まる。オール電化の家庭は暖房だけでなく、調理も給湯もできなくなった。エアコンはコンプレッサーとファンを電気で回す。停電すれば動かない。灯油のFF式ストーブもファンヒーターも、電気で制御しているので同じだ。
薪ストーブは薪を燃やすだけで暖房する。点火はマッチかライター。送風はない。煙突のドラフト(上昇気流)が空気を自然に吸い込み、排煙する。電気は一切使わない。
灯り:炎が部屋を照らす
湯沸かし:天板にやかんを載せる
調理:鍋やダッチオーブンで煮込み料理
必要な備え 乾燥した薪の備蓄(1日分=20〜30kg)
マッチかライター
耐熱グローブ
岩手県は山がちで送電線が長い。雪や風で木が倒れ、送電線を切断する事故がときどき起きる。2011年の東日本大震災では広域停電が数日続いた地域もある。停電の頻度が高い地域ほど、電気に頼らない暖房を持つ意味が大きい。薪ストーブはふだんの暖房であると同時に、いざというときの備えにもなる。
併用という選択肢
薪ストーブを入れたらエアコンは不要になるか。答えはノーだ。多くの家庭では両方を使っている。薪ストーブは暖まるまでに30分から1時間かかる。外出中は火を焚けない。夏の冷房もできない。エアコンはボタンひとつで動くが、真冬の暖房力は心もとない。二つの暖房は弱点が正反対だから、併用が成り立つ。
外出中・就寝中 = エアコン(タイマー自動運転・火の管理不要)
春・秋の肌寒い日 = エアコン(薪を焚くほどではない日)
夏 = エアコン(冷房)
薪ストーブを焚いている間、エアコンは止めてよい。在宅時間が長い家庭では、1日のうちエアコンを使う時間が半分以下になる。冬の電気代が月1万円以上下がったという声は珍しくない。そのぶん薪代がかかるが、原木を自分で割れる環境があれば薪代は実質ゼロに近い。
暖かさの質が変わる
エアコンだけの冬は「温風の中にいる」感覚で過ごす。薪ストーブを併用すると「輻射熱に包まれている」時間が生まれる。乾燥が和らぎ、足元まで暖かく、のどが痛くならない。暖かさの質が変わると、冬の過ごし方も変わる。
オール電化の家に薪ストーブを足す
オール電化の家庭で冬の電気代が月5〜8万円になるケースがある。暖房と給湯と調理のすべてが電気だからだ。寒冷地ではエアコンの効率が下がるので、暖房だけで月3万円を超えることもある。
薪ストーブを足すと、在宅時の暖房を電気から薪に切り替えられる。天板でお湯を沸かせばポットの電気代も浮く。暖房分の電気代を月1〜2万円下げられる家庭は多い。
後付けできるか
できる。新築でなくても、煙突を壁から外に出す(壁出し)か、屋根を抜く(屋根出し)かで設置工事を行う。後付けの場合、炉台と防火壁の設置もあわせて行う。工事は通常2〜3日で終わる。ただし、マンションや集合住宅では煙突の設置が難しい。戸建て住宅向けの選択肢だ。
停電の備えになる
オール電化は「すべてが電気」で動くぶん、停電ですべてが止まる。暖房、給湯、調理、照明。薪ストーブは電気を使わないので、停電しても暖房が続き、天板で調理もお湯も沸かせる。オール電化の家にとって、薪ストーブは唯一の「電気に頼らないインフラ」になる。
ペレットストーブという選択肢
薪ストーブの手間が気になる人には、ペレットストーブがある。ペレットストーブには「輻射式」と「温風式」の2種類がある。輻射式は薪ストーブに近い暖め方で、炎の見える窓から赤外線を放つ。温風式はファンで温風を送るので、暖め方はエアコンに近い。
風が気になる人が選ぶなら、輻射式のペレットストーブか、薪ストーブになる。ペレットストーブは薪割りがなく、タンクにペレットを入れてスイッチを押すだけで自動運転する。排気筒の工事も煙突より小規模で済む。ただし電気が要るので、停電すると止まる。消費電力は月500〜1,500円と小さいので、ポータブル電源があれば停電時にも数時間は運転できる。
数字を見てから、選ぶ
エアコンには立ち上がりの速さがある。ボタンひとつで動く手軽さがある。初期費用も安い。薪ストーブには火をおこす手間がある。薪を調達し、乾燥させ、保管する仕事がある。初期費用も高い。
ただ、岩手の冬の朝に「暖房が止まらない」ことの価値は、東京の人が想像するより大きい。マイナス10℃の朝に暖房が10分止まることが、一晩に3回あることが、11月から3月まで毎日続くこと。その体験をした人にとって、薪ストーブの「止まらなさ」は、スペックの数字では表れない安心感になる。
炎の前に座れば、数字の意味がわかります。
岩手・盛岡で薪ストーブやペレットストーブをお考えの方は、D'STYLEへ。エアコンとの併用プランから、オール電化住宅への後付け工事まで、ご相談は無料です。
