岩手に住んでいて、冬の暖房がエアコンだけ、という家庭は少なくありません。共通しているのは「寒い」ということです。エアコンの暖房は、外がマイナス10度になるとカタログ値の43%しか出ない。20畳用をつけていても、実質7畳分。足元は冷たいままで、風が顔にあたり、のどが痛くなる。加湿器を3台置いてもまだ乾く。
そんな相談を受けて、私たちがまず話すのがペレットストーブです。薪ストーブほど手間はかからない。エアコンよりずっと暖かい。そのあいだに立つ暖房器具です。この記事では、エアコンからペレットストーブへの切り替えを検討している方に、費用・暖め方・乾燥・使い分け・賃貸の条件まで、まとめてお伝えします。数字を並べるところまでが当社の仕事です。「このストーブが合う・合わない」を決めるのは、数字を見たお客様ご自身です。
ペレットストーブとは何か
ペレットストーブは、木質ペレットを燃料にする暖房器具です。ペレットとは、間伐材や製材所の端材を乾燥・圧縮して小さな円柱状に成型したもの。直径6〜8ミリ、長さ1〜2センチ。これをストーブ本体のタンクに入れて、スイッチを押すだけで自動点火します。燃料の送り出しも自動、消火も自動。「ボタンひとつ」の手軽さが、薪ストーブとの一番大きな違いです。
暖め方には輻射式と温風式の二種類があります。輻射式は、炎の窓から赤外線を放って暖める方式。薪ストーブに近い暖かさで、風が出ません。温風式は、ファンで温風を送る方式。暖め方はエアコンに近いですが、風量はエアコンよりずっと穏やかです。風が苦手な方は輻射式を選ぶのがよいと思います。
煙突工事が要らない、というのも大きな特長です。薪ストーブは煙突を屋根まで立てる必要がありますが、ペレットストーブは排気筒を壁に通すだけ。エアコンの配管穴と同程度の工事で、壁に直径10センチほどの穴を開けます。設置工事は多くの場合、1日で終わります。
エアコンとペレットストーブ。変わること、変わらないこと
切り替える前に、何が変わって何が変わらないかを整理しておきます。
| エアコン | ペレットストーブ | |
|---|---|---|
| 初期費用 | 10〜30万円 | 50〜120万円(本体+排気筒工事) |
| 暖房費(ひと冬) | 10〜17.5万円 | 7.5〜10.5万円 |
| 暖め方 | 対流(温風) | 輻射+対流、または温風 |
| 手間 | ほぼゼロ | ペレット補充・灰処理・年1回点検 |
| 冷房 | できる | できない |
| 停電時 | 止まる | 止まる(電源が要る) |
| 炎 | なし | あり |
初期費用はペレットストーブのほうが高い。排気筒の設置工事が15〜25万円、本体が20〜60万円。ただし、ランニングコストではペレットストーブが逆転します。次の章で、数字を並べます。
暖房費をひと冬で比べる
ペレットストーブの燃料は木質ペレットで、10kgの袋が500〜700円です。6kW級のペレットストーブを1日10時間焚くと、ペレット消費量は1時間あたり約1kg。1日10kg、ひと月300kg(30袋)、暖房シーズン5ヶ月(11月〜3月)で1,500kg(150袋)になります。
ペレットストーブの燃料代
1kgあたり50〜70円 × 1,500kg = 75,000〜105,000円/シーズン
電気代の違い
| 消費電力 | 月の電気代 | 5ヶ月の電気代 | |
|---|---|---|---|
| エアコン(20畳用) | 1,500〜4,000W | 20,000〜35,000円 | 100,000〜175,000円 |
| ペレットストーブ(6kW級) | 30〜100W | 500〜1,500円 | 2,500〜7,500円 |
エアコンとペレットストーブでは、消費する電力の桁が違います。エアコンは1,500〜4,000Wのコンプレッサーとファンを動かし続けますが、ペレットストーブの電力は送出ファンと制御基板の30〜100Wだけ。月の電気代は数百円です。
ひと冬のトータルコスト
| 燃料費 | 電気代 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| エアコン | 0円 | 100,000〜175,000円 | 100,000〜175,000円 |
| ペレットストーブ | 75,000〜105,000円 | 2,500〜7,500円 | 77,500〜112,500円 |
ペレットストーブのほうが、ひと冬で2〜6万円ほど安くなります。ただし、初期費用の差が50万円以上あるため、ランニングコストの差だけで「元を取る」のは10年前後かかる計算です。ペレットストーブを選ぶ理由は、費用だけで語りきれるものではありません。暖かさの質、乾燥の少なさ、炎が見えること。数字に出ない違いのほうが大きいと、私たちは感じています。
外気温マイナス10度で、暖房は何畳分か
エアコンの暖房出力は、外気温が下がるほど落ちます。JIS試験条件の外気温7度からの低下率は、標準機で1度あたり約3.3%。カタログに「20畳用・暖房能力7.1kW」と書いてあっても、マイナス10度の盛岡の朝には43%しか残らない。実質3.1kW。7畳分です。
| 暖房器具 | 外気温-10℃での出力 |
|---|---|
| エアコン20畳用(標準) | 3.1kW(カタログの43%) |
| ペレットストーブ 小型3kW級 | 3.1kW(変わらない) |
| ペレットストーブ 中型7kW級 | 7.5kW(変わらない) |
| ペレットストーブ 大型12kW級 | 12.5kW(変わらない) |
ペレットストーブの出力は外気温に関係なく一定です。ペレットを燃やす量と空気の取り入れで出力が決まる。マイナス20度でも、タンクにペレットが入っていれば同じ熱量が出ます。エアコンのようにヒートポンプで外の空気から熱を汲み上げる必要がないからです。
エアコンの風と乾燥。ペレットストーブはどうか
冬にエアコンをつけると、肌がカサカサになる。唇が割れる。のどが痛くなる。これはエアコンの暖め方に原因があります。エアコンは空気を吸い込み、熱交換器で暖めて吹き出す。空気を強制循環させるたびに、肌の表面から水分が奪われます。温度が上がると相対湿度が下がるのは物理法則ですが、エアコンの風がそれを加速する。
輻射式のペレットストーブは、炎の窓から赤外線を放って暖めます。空気を強制循環させないので、エアコンほど急激な乾燥は起きません。温風式のペレットストーブはファンを使いますが、エアコンよりは風量が穏やかで、吹き出し温度が高いため低い風量で暖まります。
ただし、どんな暖房でも室温が上がれば相対湿度は下がります。ペレットストーブでも加湿は必要になる場面があります。違うのは「風で肌から水分を奪う速さ」です。同じ湿度計の数字でも、風の有無で肌の乾き方は変わります。
木質ペレットを燃やすと、燃焼の副産物として水蒸気が発生します。この水蒸気は排気筒から屋外に出るので、室内の湿度を直接上げるわけではありません。ただ、燃焼に使われる室内の空気は少量なので、エアコンのように室内の空気を何度もかき回す乾燥は起きにくい。風が苦手な方、乾燥がつらい方にとっては、暖め方そのものが変わることの恩恵は大きいと思います。
手間が増える。でも嫌な手間ではない
エアコンはリモコンを押すだけです。ペレットストーブにはペレットの補充があります。タンクに木質ペレットを入れる作業は、コーヒー豆をミルに入れるのに近い。1日1〜2回、10kgの袋からタンクに注ぐ。ザーッと流し込むだけです。
灰は週に1回ほど掃除します。灰受けを引き出して、灰を捨てるだけ。ものの2、3分です。年に1回、排気筒の清掃と点検を業者に頼みます。これもペレットストーブ特有の手間ですが、薪ストーブほどではありません。薪割り・薪の乾燥・煙突掃除がないからです。
ペレットの保管場所は必要です。ひと冬で150袋。10kg袋を積むと、畳2枚分くらいのスペースが要ります。車庫や物置に置く家庭が多い。配達で届くペレットを、使うぶんだけ家の中に持ち込む。この手間を面倒に感じるかどうかは人によります。「コーヒー豆を買いに行くのが面倒か、楽しいか」と同じ話だと思っています。
季節と時間帯で使い分ける
ペレットストーブを入れたらエアコンはもう使わないのか。そんなことはありません。両方あるなら、それぞれの得意な場面で使い分ければいい。
季節で分ける
真冬(12月〜2月)はペレットストーブが主役です。外気温が0度を下回る日が続く盛岡では、エアコンの暖房力が落ちる。ペレットストーブは外気温に関係なく安定した熱量を出します。
春・秋(10〜11月・3〜4月)は、短時間ならエアコンが手軽です。朝晩だけ冷えるような時期は、エアコンの弱運転で十分なことが多い。ペレットの補充や着火の手間が省けます。
夏(5〜9月)は冷房の季節。ペレットストーブに冷房機能はありません。エアコンの独壇場です。
時間帯で分ける
在宅で腰を据える時間帯はペレットストーブ。輻射熱でじっくり暖まれます。外出前や帰宅直後など、すぐに暖めたいがすぐ切りたい場面はエアコンのほうが気楽です。就寝中はどちらも止める家が多い。ペレットストーブはタイマーで消火できる機種があります。
コストで分ける
電気代が高い月はペレットストーブの出番を増やし、ペレットの在庫が少ないときはエアコンで凌ぐ。どちらか一方に頼り切らないほうが、暮らしの自由度は上がります。
賃貸マンションにペレットストーブは置けるか
「エアコンの暖房がつらい。ペレットストーブに興味がある。でもうちは賃貸マンション。」そういう相談を受けることがあります。結論から書くと、条件次第では置けます。ただし壁は高い。
3つの壁
壁1:排気筒。ペレットストーブは燃焼排気を外に出す必要があります。壁に穴を開けて排気筒を通す。賃貸では壁に穴を開ける時点で、大家さんの許可が要ります。マンションの共用部分(外壁)に手を加えることになるため、管理組合の承認も必要になることがあります。
壁2:管理規約。「火気厳禁」と書いてある管理規約は多い。ペレットストーブは火を使う暖房器具なので、規約に引っかかる可能性があります。灯油ストーブが禁止されていれば、ペレットストーブも同じ扱いになることが多い。
壁3:原状回復。退去時に排気筒の穴を塞ぎ、壁と床を元に戻す費用がかかります。本体の移設費用もある。短い入居期間では割に合わないことがあります。
それでも置けるケース
一戸建ての賃貸で、大家さんが了承してくれる場合。古い一戸建てで、もともと煙突穴がある物件。大家さん自身がペレットストーブに関心を持っている場合。実際にゼロではありません。
マンションの場合は、1階で専用庭がある住戸なら排気筒を屋外に出しやすい。ただし管理組合の承認は別途必要です。
今の住まいにペレットストーブを置けなくても、将来の持ち家に向けて下見はできます。盛岡のショールームでペレットストーブの暖かさを体験して、「次に家を建てるとき・買うときに入れる」と決めている方もいます。
設置工事のこと
持ち家の場合、工事は1日で終わることが多い。排気筒を壁に通して本体を据えるだけです。薪ストーブのように煙突を屋根まで立てる必要がないので、工事の規模は小さい。設置場所はリビングの壁際が多い。排気筒を外壁に出せる位置であることが条件です。コンセントも1口要ります。
事前に現地を見て、排気筒のルートと設置位置を決めます。二階に設置したい場合や、排気筒のルートが複雑な場合は工期が伸びることもありますが、大がかりな工事にはなりません。
火が見える、ということ
ここまで数字の話が続きましたが、ペレットストーブを選ぶ理由として「火が見えること」を挙げる方は多い。暖房力だけなら灯油のファンヒーターでも足りる。けれど、ファンヒーターには炎の窓がない。
ペレットストーブの正面にはガラスの窓があります。揺れる炎がリビングに見える。冬の夜、明かりを落として炎を眺める時間は、暖房の「おまけ」にしては贅沢です。暖房器具を選ぶときに、暖房力と費用だけでは測れない何かがある。火を見たことがない方には説明しにくいのですが、ショールームで一度、炎の前に座っていただければわかります。
暖房の選び方は「暖かさ」と「手間」と「費用」の三つ。ペレットストーブは手間がエアコンに近く、暖かさは薪ストーブに近い。そのあいだに立つ選択肢です。
ペレットストーブは岩手・青森・秋田・山形・宮城のように冬が厳しい東北で、頼りになる暖房の選択肢です。エアコンだけでは届かない寒さを、少ない手間で補えます。
