スイスの山間部やドイツの南部を旅すると、古い家のリビングに大きなタイル張りの構造物が鎮座しているのを見かける。カッヘルオーフェン(Kachelofen)。直訳すると「タイルの炉」。北欧の薪ストーブとは全く異なる思想で作られた暖房装置だ。
熱を溜めて、ゆっくり放つ
カッヘルオーフェンの内部には、迷路のような煙道が巡らされている。薪を焚くと、高温の排気がこの煙道を通りながらタイルと耐火レンガに熱を渡していく。外側のタイルは陶器製で、蓄熱性が高い。一度温まると冷めにくい。
朝と夕方の2回、30分ずつ焚くだけで、一日中部屋が温かい。北欧の鋳鉄ストーブが「火を見ながら暖まる」のに対し、カッヘルオーフェンは「火を消しても暖かい」。蓄熱量が桁違いに大きい。
部屋の一部になる暖炉
カッヘルオーフェンは動かせない。レンガと陶器で造り付けにするから、家を建てるときに設計に組み込む。重量は500キロから、大きなものは2トンを超える。家具ではなく建築の一部だ。
表面のタイルには絵付けが施されることがある。花柄、幾何学模様、紋章。何百年も前に作られたカッヘルオーフェンが博物館に保存されているのは、美術品としての価値もあるからだ。
日本の蓄熱
日本では蓄熱式の暖房はあまり普及していない。土壁の家には蓄熱の要素があったが、現代住宅ではほとんど見かけない。一方、フィンランドにはソープストーン(蓄熱石)を使ったストーブがあり、トゥリキヴィ社の製品は日本でも知られている。
蓄熱か、即暖か。ストーブの選び方には暮らし方が反映される。週末だけ焚く家なら即暖性の高い鋳鉄ストーブが合う。毎日焚く家なら蓄熱型にも利がある。どちらが正解ということではなく、自分の冬の過ごし方に合うものを選ぶことが大切だ。